Chapter/10-2/5-






なんだか嫌な予感がする、フリオニールはそんなことを考えながらひた走っていた。
皇帝が何を仕掛けてくるか分からない今は油断できる状況ではないし、それに…どこかライトニングの表情が厳しいことに気づかないほどフリオニールは鈍感なつもりはなかったし。

暫くの間近くを、様子を窺いながら走り回っていたふたりであったが…遠くから聞こえる剣戟の響きに、ふたりは顔を見合わせた。

「セシル…かな」
「その可能性は高いな、それに」

ライトニングがそこで言葉を切り、沈黙が走ったかと思うと微かに声が聞こえてくる―その声がセシルのものであるような気がして、フリオニールは剣戟と声の聞こえてくる方へ足を向けなおした。
すぐにライトニングも同じ方向に足を向け、ふたりは頷きあうと真っ直ぐにそちらに向けて走り出す。
脚を進めるたびに近くなる剣戟の響き。そして間違いなく、聞こえてくる声はセシルのもの。
その割には戦っているのであろう相手の声がしない…相手はイミテーションだろうか、その程度の想像しか出来なかったけれど…
そして物音の発生源だろうと思われるあたりまで近づいた時…丁度そこでは、フリオニールの想像通りイミテーションを前に勇ましく戦うセシルとそれを助けるカインの姿があって。

「…セシル、カイン!」
「今行くと巻き込まれるぞ」

少し離れたところから聞こえた、妙に落ち着いた声―ゴルベーザのその声に、フリオニールとライトニングは同時に振り返った。
ゴルベーザは腕を組み、戦うセシルとカイン…そしてイミテーションの方へしっかりとその顔を向けている。
やはり表情が見えないということで感情が掴みづらくはあるが、その声に焦りなどは一切感じられない―それだけで伝わってくる、ゴルベーザが弟とその親友をどれほど信頼しているのかと言うことを。
その言葉に、ふたりは大きく頷くと微かに身を引き、ゴルベーザのすぐ近くへと移動した。
幸いなことにと言うかなんというか、今セシルと対峙しているイミテーションはさほど強力なものではないらしい。

「それにしてもセシルは一人で野営地を抜け出して何をしていたんだ」

ゴルベーザを見上げながらフリオニールはそう訊ねるが、その問いにゴルベーザは首を横に振ってみせた。
そしてその視線は再び、戦いを続ける弟とその親友の元へ―

「…それは私にも分からぬ。私がここにたどり着いた時には既にセシルはイミテーションと戦っていたし、カインは後先考えずに手助けするために突っ込んでいったからな」
「つまり、無事に戦いが終わった後に聞くしかないってことか」

フリオニールは大きく息を吐くと、ゴルベーザ同様戦うセシルの方に視線を送る。ちらりと一瞬だけ視線を送ると、ライトニングも同じように2人の姿をじっと見つめていた。
その表情はやはりどこか暗くて…ライトニングは一体何を案じているのだろうか、それがフリオニールには分からなくて…何故だか、近くにいるはずのライトニングがとてつもなく遠く感じる。
しかしフリオニールがそんなことを考えている間にもイミテーションは既に腕や脚などがぼろぼろと崩れ始めていて、セシルはタイミングを窺うようにその様子を見ていたがひらりと一度身体を宙に回せると手にした剣を素早く振る。

「天に舞え!」

そして更に剣を構えるとその身を躍らせ、更に剣を振りかざして敵へと切りかかる。
マントがひらりと翻り、聖騎士―パラディンたる彼のその身はその名に相応しい聖なる光を纏っているようにさえ見えていた。
時に女性と見まごうような顔立ちをしていても、騎士たる彼の戦いぶりはその称号に恥じぬ堂々としたもの。フリオニールはそのことを良く知っていたが、改めて思う―セシルは、優しさと強さを併せ持っている…と。
フリオニールがそんなことを考えている間にも、セシルの―一見舞っているようにすら見える攻撃の手は緩むことはない。

「刹那の光刃!」

大きく振りかざされた剣がイミテーションの身体を打ち、その身は地面に大きくたたきつけられる。そしてその刹那、カインが大きく身を宙へと躍らせた―それは竜騎士たる彼の得意技。


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