Chapter/09+-1/2-






「一筋縄ではいかないようね」

手の甲に掠めた銃弾がつけた傷を見ながらアルティミシアは空を仰ぎ、大きく息を吐いた。
この世界の摂理から逃れ、自分だけの世界を作ること、それがかつての彼女の望みだった―しかし。
そう簡単に思うようには行かない、それは過去の戦いで充分に思い知らされている。
そしてそれは望むことが変わった今となっても。

「あなたがあの坊やを恐れるのはそのせいなのでしょうね」

はっきりと言えば、アルティミシアは己の「宿敵」―孤高の獅子のことなど歯牙にかけてもいなかった。
自分ひとりだから敗れたのだ、皇帝や…ケフカやエクスデスの力をうまく使えば、彼1人ならどうにでもなると思っていた―しかし、やはり徒党を組んだ時の秩序の神の戦士達の力は侮るべきではないのかもしれない。
そう考えれば、恐れるまではなくとも自分にとっての宿敵を抹殺する策も練っておく必要があるかもしれない―

「弱いからこそ繋がりたがる―群れを成すのは己の弱さを認めているということ」

その呟きは秩序の神の戦士達に向けられたようでいて、その実アルティミシア自身に向けられたものかもしれなかった。
自分が弱いなどと言うことを考えたこともなかったのに、皇帝がフリオニールを恐れることも仲間達で助け合って秩序の神の戦士達が自分たちに抗うことも何もかもが自分たちの計画を狂わせる。
それならば自分は皇帝と共に彼らの抵抗の上を行けばそれでいい―いっそ皇帝に利用されていることを逆手に取るくらいの腹積もりでいればそれでいい。
彼が望む支配を手に入れた後でも、アルティミシアが「本当に欲しいもの」は手に入れられるのだから。

「…マティウス」

房事の最中にだけ呼ぶことを許されたその名を、アルティミシアは静かに呟いた。
自尊心の強い彼女が何も言わず皇帝に従っている理由などひとつしかないのに、それでも―愛など足枷にしかならないと言い切る皇帝の言葉はアルティミシアの心に爪を立てる。
心が血を流すように感じる錯覚―だが、彼が野望に燃えている限り手に入らないのもまた事実。だからアルティミシアは黙って皇帝に服従している…
無意識に空を仰いだ彼女の視界、そこに映るものにアルティミシアは微かな違和感を覚えた。
空を覆う雲、その一部だけがどこか昏く―その色はかつて良く見ていたもの、そして…探せども見つからなかったもの。
ふん、と鼻で小さく笑い、アルティミシアはその雲に向かって声を上げる。

「…一体今までどこで何をしていたのです」
「わしがどこにいようとお前には関係あるまい」

色の変わった雲からは想像の通り、アルティミシアにとっては見慣れていたはずの姿…暗闇の雲が姿を見せる。
雲の隙間からするりと滑り出るように姿を現し、一度地面を這うようにしながらすぐにふわりと身を宙に舞わせるその姿は懐かしさにどこか似た、しかしそんな感傷的なものではない不思議な感情をアルティミシアに想起させた。
―そして。かつて混沌の神に与していた戦士達の中で、彼女の行方だけが杳として掴めていなかった。
ケフカやエクスデスのように、自分と共に皇帝の野望に従うと決めたものもいればゴルベーザやジェクト、クジャのように自分たちに逆らうと決めたものもいる。
ガーランドやセフィロスは敵になる気も味方になる気もない、と皇帝に言い放ったと聞いているが―彼女は言った移動するつもりだろうか。
ただ何にせよ、ここで出会ったのは好機と取るべきなのかも知れず―かけるべき言葉を探っていたアルティミシアに対し、暗闇の雲は先制するかのように一言言い放った。

「得体の知れない神に服従することは拒んだお前が、よもや皇帝に服従することになろうとはな」
「その様子だと私たちの望みは分かっているようね」
「全てを見ておった…あんな小娘と若造ごときに踊らされるとは、時の魔女が滑稽なことよ」

全て、とはきっと先ほどのライトニングとの対峙を指しているのだろう。確かに、一人になったライトニングを狙ったつもりが他の仲間に駆けつけられたのは失策ではあったが…


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