Chapter/09-3/5-






そして、テントにはライトニング1人が取り残される―
ポーションが使いかけだったと言っていたが確かに、服を着ていて見える範囲の傷は綺麗に治されている。
しかし、服が破れその周りに血が滲んでいる…そのあたりの傷を治すにはポーションが足りなかったらしい。
ライトニングは溜め息をつきながら詠唱を始める。思っているより傷は深く、魔法だけでどうにかなるかは自分でも良く分からないがそれでも…服を着込めば怪我をしていることは悟られない程度には回復できるだろう。
ある程度の傷を癒し終え、落ち着いたようにひとつ息を吐いたライトニングが思い出したのは―先ほど対峙した、アルティミシアの言葉。

―もしもその力があるのなら、そしてあの坊やが望むなら…あなたもきっと私と同じことをする。違うかしら…

「…私はお前とは違う」

既にそこにはいないアルティミシアに対して、ライトニングははっきりと言い放つ―そう、自分はアルティミシアとは違う。
アルティミシアは愛ゆえに皇帝に従うことを選び、ライトニングは愛ゆえにフリオニールと共に戦うことを選んだ―そこだけ見れば、全く同じなのかもしれない。
だが、ライトニングとアルティミシアには決定的に違うところがあった。

―盲目に従い受け容れるばかりが愛じゃない。時に逆らうことがあっても隣に並び立つに相応しい自分でいることこそが私の愛し方だ…

未だ痛みの残る脇腹を押さえながらライトニングは立ち上がる。
そして決意を新たにしていた…フリオニールが皇帝と戦うというのならば、自分はその隣でフリオニールを支え、守り抜くと。
その決意を確かめるようにひとつ頷き、ライトニングはテントを出た。
丁度そこには、ひずみから戻ってきたらしきウォーリアオブライト達の姿があった…ライトニングが姿を見せたのに真っ先に気づいたのは当然と言うかなんというか、フリオニールで。

「あ、ライト…ただいま」
「ああ、お帰り。随分時間がかかったようだが」
「時間がかかったのは博士が無駄にイミテーション配置してっからだと思うんだけどな、俺は」

横から口を挟んだプリッシュに視線を送り、ライトニングは一瞬だけ虚を突かれたような顔をする。
そこで漸くライトニングも気づいた、ウォーリアオブライトが力を借りに行ったというのはプリッシュ…と、シャントットなのだろう、と。

「向こうが人海戦術で来るならこっちも戦力を増やした方がいいって、あの人は考えてるみたいだ」
「…なるほどな」
「って事で、今日からよろしく…ってお前、大丈夫か?なんか顔色悪いけど」

プリッシュに指摘されて、ライトニングはそ知らぬふりをしてそちらから視線を逸らす…いくらある程度傷は治したとは言え完治しているわけではないし、顔に出てしまっていたのだろうか。
しかし、その言葉を聞き逃すフリオニールではないことも彼女は充分に承知していて。
当たり前のように手首を掴まれ、当たり前のように顔を覗き込まれる。

「…ほんとだ、少し顔色が悪いな…何かあったのか?」
「いや、なんでもないんだ…さっき見張りをしていたから疲れているのかもしれない。悪いが少し休ませてもらう」

手首を掴んだフリオニールの手を振り払い、ライトニングは先ほどまでいたテントへと向かう。
そう言えば、余剰のポーションはひずみに向かった者達が持っていっていたのだから今ならウォーリアオブライトに言えばポーションを出してもらうことも出来るかもしれない…
一瞬だけそう考えたが、ライトニングはすぐに否定するように首を横に振った。何の意味もなくポーションが欲しいなどと言い出して納得するウォーリアオブライトではないし、自分が怪我をしていることを悟られてしまったら間違いなくフリオニールの耳に入る。
それだけはどうしても避けたくて、ライトニングはテントの中に入ると身体を横たえて再び魔法の詠唱を始めた―だがそれだけで治癒できるほど浅い傷ではなく、痛みが先ほどよりましになったと言う程度で。
はあ、と大きく息を吐いてからライトニングはぼんやりと、テントの幕に視線を送っていた。
回復魔法も連続して使うには精神力を消耗する。疲れているという言い訳は疑われてはいないようだし、本当に少し休んでからもう一度魔法を使いテントを出ればいいだろう…そんなことを考えていたライトニングの耳に届いたのは、聞きなれた足音。

「ライト…大丈夫か?」

足音に続いてテントの外からはフリオニールの声がする…その声はやはりどこか心配そうで。
いくらなんでもさっきの、一方的に言い放って腕を振り払ったことで訝しがられてしまったのだろうか。
表情が見えないだけに余計に、今のフリオニールがどんな顔をしているのか想像もつかない…なんだかそれがとても申し訳ないような気がして、冷たくあしらうことは到底出来そうにもなくて。

「大丈夫だ…少し休めば元に戻る。そんなに心配するな」
「でも…」

未だ心配そうなフリオニールの声から逃げるように寝返りを打ち、テントの入り口に背中を向けたライトニングはフリオニールには聞こえないように小さな声で再び魔法の詠唱を始める。


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