Chapter/08-2/4-
「ライトニング、ラグナ。次は任せた」
自分たちの持ち時間を終えて戻ってきたクラウドが次の順番に当たっているライトニングとラグナにそう声をかけ…ラグナは悪戯を思いついた子供のように小さく笑ってみせる。
「何かあったらすぐ呼ぶんだぞライト。まぁ残念ながら呼んだところで駆けつけるのはお前さんの王子様じゃないんだけどさ」
「くだらないことを言っている暇があると思っているのか?大体、あいつは王子様ってガラじゃない」
あっさりとそう言い放ったライトニングはそのまま、野営地の外側に向けて武器を手に歩き始めた…背後に仲間達の笑い声とラグナの足音を聞きながら。
自分の足音だけが響く森の中―ライトニングは集中して、イミテーションの気配を察知しようとしていた。
今たとえ誰もいなくとも、いつどこで仲間に危害を加えようとするものが現れるか分からない…ライトニングの視線は自然と厳しいものになる。
普段よりも張り詰めた心―だからだろうか、隠れる様子すら見せなかった「その気配」を、ライトニングははっきりと感じてそちらに視線を向けた。
「…気配を隠すこともしないとは、何のつもりだ」
その声に誘われたかのように、木の陰から姿を現したのは―アルティミシア。
手にした武器を構え、ライトニングはアルティミシアを真っ直ぐに見据える―その視線は厳しく、そして鋭い。
ライトニングの視線に怯む様子など全く見せないアルティミシアは腕を組んだまま、ライトニングを見下すかのように視線を返した。
「敢えて言うのなら、貴女と仲良くなりたいと思ってここへやってきた…と言うところかしら」
「笑えない冗談だな」
余裕ぶったアルティミシアの言葉と微笑みが無性にライトニングの神経を引っかく。
視線はアルティミシアから動かすことはなく、ライトニングは手にした武器を真っ直ぐにそちらに向けた。
「お前が皇帝と手を組んでいることは知っている―もう一度聞く、何のつもりだ」
「だから言っているでしょう、貴女と仲良くなりたいのだと」
武器を向けられたところで動じることはない。アルティミシアは相変わらずライトニングを見下ろすような…妖艶さと残虐さを孕んだ笑みを表情に張り付かせたままライトニングの視線を跳ね返すかのようにそちらに視線を向けていた。
「残念ながら私にはそのつもりは一切ない」
「…本当に残念ね。貴女にそのつもりがあれば…あの坊やを助けられるかもしれないのに」
その言葉が誰を指しているのか―瞬時に理解したライトニングの眉根が寄る。それだけで鋭く厳しくなる、アルティミシアに向けられる視線―
ライトニングの内心の動揺を見抜いたのだろうか、アルティミシアは小さく鼻で笑ってみせた。
アルティミシアの視線はどこかライトニングを馬鹿にしているようにすら見えて…それが余計にライトニングの苛立ちを強くさせる。
「あの人は…皇帝はあの坊やを恐れている。あの坊やを亡き者にしないとその不安は取り除かれることはない」
一歩、また一歩とアルティミシアはライトニングに近づいてくる…そしてその腕を伸ばし、ライトニングの頬にアルティミシアの掌が触れた。
アルティミシアの言葉と身体の底から冷やされるようなその掌の感触がライトニングの心までも冷やす―小さく身震いしたのはその冷たさのせいなのか、それとも…
「でも、貴女が私達に従うというのなら…あの坊やの命だけは助けてあげても構わない。悪い話ではないと思うのだけれど」
「ふざけるな…誰がお前達なんかに」
アルティミシアの冷たい掌を振り払ったライトニングはそのままの勢いで剣を振り上げる…アルティミシアは先ほどまでのゆっくりとした動きが嘘のように素早く身を翻らせ、その一閃をかわした。
「交渉決裂…と言うことでいいのかしら?」
「それも笑えない冗談だ。そもそも交渉にすらなっていない―私がどうあろうと、フリオニールはお前達なんかに負けたりしない」
「…残念ね。貴女の態度しだいでは本当に…あの坊やを助けてもいいと思っていたのに」
アルティミシアの背中の翼がふわりと広がる…視線はライトニングを捕らえたまま。
互いに距離を図りあっていると言ったところだろうか…下手に距離をとるのも危険だと感じたライトニングはじりじりとアルティミシアのほうに近づき、踏み込むタイミングを図る。
無論アルティミシアもライトニングの狙いくらいは分かっているのだろう、そう簡単に隙を見せることはない―結果、そこに生まれるのは膠着状態。