Chapter/08-1/4-






フリオニール達がシャントットのいるひずみへと向かい、野営地には束の間の静けさが訪れる。
だがぼんやりしているわけにも行かない。戻ってきたものを出迎える為にも、彼らは彼らで自衛に努めるべきだ―最初に言い出したのはオニオンナイトだった。

「皆が帰ってくる場所を守るのが今の僕達のするべきことだと思うんだ」
「…君みたいな子供に指図される謂れはないね。僕がここにいるのはただ、僕の目的を果たす為にその方が安全だと思っているからなんだから」

鼻で笑うクジャに、不機嫌そうに表情を歪めるオニオンナイトの肩にティナが手を置きクジャの腕をジタンが掴む。
触れられた側の2人は振り返ると、そこにいた人物の顔を確かめるかのように見る―ティナとジタンが言葉を発したのはほぼ同時。

「落ち着いて。彼にも悪気があるわけじゃないから」
「気持ちは分かるけどさ、油断してて全滅なんてことになったらマズいのはお前だって分かるだろ」

言われた言葉にオニオンナイトは唇を尖らせ、クジャは視線を逸らして黙り込む。ジタンとティナの視線がそこでぶつかって、2人は苦笑いを交わし合った。
一度目を閉じたティナはゆっくりとその目を開き、視線を逸らしたままのクジャをその視界に捕らえる―

「お願い。あなたにも協力して欲しいの…これはあなたを守ることにも繋がるから」
「…ただの人形だった時とは大違いだねえ」

ティナの言葉を受けてそちらを一瞥したクジャは一言、ぽつりとそう呟いた。
途端、オニオンナイトの顔が上気する。その表情は彼が明らかに激昂していることを示すかのごとく、きりりと眉が釣りあがっている―

「ティナを人形なんて呼ぶな!」
「いいの。最初は私、自分ひとりでは何も出来なかった。それは事実だから」

対するティナは穏やかな笑みを浮かべたままオニオンナイトの手にかけた手の力を強める。そして、視線はしっかりとクジャの元へ。

「私たちはもう、あなたのことも仲間だと思ってる―守りたいの、あなたのことも」
「それにもし今何かあったら…オレ、お前に貸し作ったまんまいなくなっちまうかもな」

付け加えるようにジタンが一言、その言葉にクジャは一度俯き、そして顔を上げる。そこに浮かんでいたのはいつもの彼らしい、自信ありげな笑顔。

「僕は君たちと馴れ合うつもりはない。だけど、ここで君たちに倒れられたら困るからね…僕の力が必要なら声をかけるといい」

そしてクジャはひらりとボレロの裾を翻し、ふわふわと漂いながらその場を去っていった―
素直じゃねえな、と言うジタンの呟きにティナが苦笑いを漏らし、どこか釈然としない表情のままのオニオンナイトはひとつ大きく息を吐いた。

…何はともあれ一行は交代でイミテーションの襲撃などがないかを見回ることになった…わけで。
無論、見回りの担当に当たっていないものたちも普段のようにのんびりと過ごしているわけではなく、普段よりはどこか張り詰めたような表情のままでいる者が多い。
今までだって別に物見遊山で旅をしていたわけではないが、明確に戦うべき相手がいるわけでなく…無論イミテーションと戦うことはあったが、それは自分たちの行く手を阻むもののみで。
こうして明確に自分たちに敵意を持った者から身を守る必要に迫られることなど、この旅の合間はさほどなかっただけに皆の緊張感も否応なく高まるというものだろうか…
それでも最初に見回っていたバッツとヴァンが特に何事もなく戻ってきた事で一行の緊張は幾分解れたようではあったが。

「静かなもんだったけどなー。案外、何か起こるってのも心配しすぎなんじゃないかって思えるくらい」
「バッツの言いたいことは分かるけど、気を抜いちゃ駄目だよ。何が起こるかわからないって思ってるくらいが丁度いい」

いつも通りの呑気なバッツの言葉を諌めながら、次の見回りに当たっているセシルが一歩足を進める。そして、セシルの向かうのと反対に向かってカインが歩き始めた。

「この調子だったら、ひずみに向かってるヤツらが帰ってくるまで何も起こらないかもしれないっスね」
「だといいが、な」

セシルとカインの背中を見送りながらティーダとクラウドがそんなことを言い合っている、その様子をクジャが興味深げに眺めていたりもして…
バッツ達に何も起こらなかったことで、一行の緊張は幾分解れたのかもしれなかった。
どこか不安げに張り詰めていた一行の表情にも、少しずついつもの穏やかさが戻り始め―このまま本当に、何か起こるというのも考えすぎであればと、その時は誰もが思っていた。
やがてセシルとカインも無事に戻ってきて、その次に見回りに向かったのはクラウドとティファ。
その2人が何事もなく戻ってきたことで、一行の表情からは更に張り詰めた色が薄くなってゆく―それに、ひずみに向かった者たちももうすぐ戻ってくるだろう。


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