Chapter/06+-1/2-






混沌の大陸、皇帝の居城。

「…早速壊したか。修復すれば良いというものでもないのだぞ」

皇帝が目の前に放り投げた、フリオニールの手によって破壊されたイミテーションを一瞥してエクスデスは一言、感情のこもっていない声でそう呟いた。
対する皇帝は化粧の下で微かに表情を歪めながらもそれを気取られぬようすぐに踵を返す。

「修復できるのなら修復すればそれでよかろう」
「そう簡単なものでもない…いや、説明をしても無駄か」

背後から聞こえるエクスデスの声にはどこか自分を馬鹿にするような響きが込められていたように感じて、皇帝は小さく舌打ちをする。
どいつもこいつも、と呟いた声はきっとエクスデスには届いていない―
それ以上は何も言わず、皇帝はエクスデスの元を辞去し玉座の間へと足を進めた。

「…どこへ行っていたの?」

玉座の間に戻った皇帝を出迎えたのは、玉座の肘掛けに足を組んで腰掛けたアルティミシア。
そのアルティミシアを一瞥し、皇帝は何事もなかったかのように玉座に深く腰を下ろした。

「ところで、クジャと暗闇の雲の件はどうなっている」
「クジャには止めを刺す前に逃げられてしまった…とは言え、あの傷ならばそう長くは持たないでしょう」

余裕ぶった微笑みを浮かべたまま、アルティミシアの左腕が皇帝の背中に回される。
それと同時に、腰掛けていた体勢から脚を一度下ろし、身体を皇帝の方に向き直らせると肘掛けに膝を立てるようにして空いたままの右手を皇帝の肩に添えた。

「暗闇の雲は相変わらず行方そのものがつかめていません」
「…彼奴はゴルベーザやジェクトと違い秩序の神の駒共と行動を共にするとは考えにくいがそれにしても―一体どこで何をしているのだろうな」

その言葉とともに皇帝の手がアルティミシアの腰に回される…そして強く引き寄せられるがまま、アルティミシアは皇帝の膝の上に座らされる格好になった。
…少しずつではあるがアルティミシアにも皇帝の考えることが分かるようになってきている。
こうして強引に自分に触れようとするときの皇帝は大体、何か上手く行かないことがあって…それに苛立っていることが多いと気づいたのはいつだった、だろうか。
そしてきっと、今も。皇帝の表情はどこか苦々しげに歪んでいる…

「人に聞くだけ聞いておいて私の質問には答えてくれないのですか」
「貴様には関係なかろう」

口をつぐんだ皇帝の背中に腕を回す…皇帝の答えはない。
しかし、アルティミシアは知っていたのだ。答えなど聞かずとも、皇帝がどこへ向かい何をしていたのかくらいのことは―
知っていて、答えはないだろうと思いながらもわざと訊ねたが―本当に答えがなかったことでアルティミシアの中に湧き上がる「悪戯心」。

「…あの坊やがそんなに憎い?」
「………黙れ」

短いその言葉の奥に秘められた怒り―それはあまりにも、皇帝らしくないもので。
皇帝のその態度に、アルティミシアの心の奥底にあった嗜虐心がくすぐられる…言えば皇帝が嫌がることは分かっていて、それでもどうしても…嫌がる皇帝が見てみたくて。
皇帝の顎にアルティミシアの長い指がかけられる。なぞるように指を滑らせ、アルティミシアは小さく笑ってみせる―

「あなたともあろう人がたった一人の戦士をそこまで恐れる理由が私には理解できないだけ…あの坊やの何が一体そんなにあなたを不安にさせるのでしょうね」
「黙れと言っているのが聞こえないのか」

アルティミシアの手を乱暴に振り払い、皇帝は先ほどまでアルティミシアが座っていたのと逆の肘掛けにもたれるようにして座りなおし、アルティミシアから顔を背け視線を外した。
どうやら機嫌を損ねたのだろうか。アルティミシアは小さく笑いながら皇帝の髪に触れる―

「あなたが不安を抱いているのなら取り除きたいと思っていることの何がそんなに気に食わないの?」
「貴様がそんな殊勝なことを考えるような女ではないことを私が知らないとでも思っていたか」
「随分な物言いだこと」

少し虐めるだけのつもりがはっきりと貶されたことで、アルティミシアの口調にもついつい棘が含まれる…皇帝はそれに対して返事をすることはなく。


←  Next→




MENU / TEXT MENU / TOP
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -