Chapter/04+-2/2-






「…哀れだな、皇帝」
「貴様に哀れまれる筋合いなどない」

そこまでは感情のこもっていなかったその声に微かに苛立ちの色が混じる。
どこまでもプライドの高い彼はガーランドが向けた哀れみの感情を受け容れることが出来ないであろうことは言った方のガーランド自身も想像はしていたが、ここまでとは思っていなかった―
彼もまた所詮、かつて捕らわれていた輪廻から抜け出せていない…先ほどの皇帝の言葉、愚民ごときと斬って捨てたその言葉が誰に向けられているものなのか。それが分からないほどガーランドは頭が悪いわけではない。
輪廻が定めた宿敵と戦う運命を捨てきれないままの皇帝に対し、それでもやはり哀れみさえ感じてしまうのは決して誤った感情ではない―ガーランドはそう考えている。
しかし考えたことはおくびにも出さず、ガーランドは話を続けた。

「気づいておらぬか。それもまた哀れな」
「…黙れ」

先ほどまではただの苛立ちであったものが、今ははっきりと「怒り」となってガーランドに伝わってくる。
輪廻を断ち切ったこの世界が今望む「宿命」―ガーランドはただそこへ向かうのみ。そのために皇帝は不穏分子となりかねない、だからこそその野望を止める必要がある。
頭のどこかでそう考えていたが故に、敢えて今皇帝を怒らせる必要があった。
皇帝が怒りに任せ何かをすればそこで反撃することも可能…今皇帝が目論んでいる事をこの場で頓挫させることも、自分ならば可能だとガーランドは思っていた。
驕りのようですらあるその考えはきっと、かつて混沌の神に与していた者を束ねていたという自負から来るものであるのかもしれない―
だが、そのガーランドの考えに反して皇帝は怒りの表情を浮かべたままながらも再び足を進め始める…そしてガーランドの隣をすり抜け、すれ違いざまに呟いた―

「貴様が何を考えているのかまでは興味がない―いずれにせよ、私の配下に入るつもりがないのならば用はない」

その後はまるでガーランドを無視するかのごとく皇帝は足早に歩き去って行く。
呟いた声に含まれていたのは押し殺した怒りと苛立ち。
その感情に任せて戦いを挑んでくるほど皇帝は短慮ではなかった、と言うことだろうか…ガーランドは小さく舌を打った。
皇帝が自ら、このすぐ近くにいるのであろう秩序の神の戦士であったもの達の所へ出向いたのは―無論、彼と戦う宿命を背負ってこの世界へと喚ばれた戦士のことが気にかかったのもあるだろうが、それを託すことが出来るような腹心がいないと言うこともあるだろう。
力による支配が人を引き付けないことに未だ気づいていない―知謀知略をめぐらせる彼がそれに気づかないのはそれだけ、自分の考えていることに絶対の自信を持っているからだろうか。
その背中に視線を向けながら、ガーランドは皇帝が聞いていようがいまいが関係ないと言った風情で小さく呟いた。

「…まこと哀れな。再び自分たちがこの世界に集められた理由すら知らぬまま下らぬ野望に捕らわれておるとは」

無言で去ってゆく皇帝にはそのガーランドの呟きは聞こえなかったのだろう、振り返ることはなくそのまま…居城を構えた混沌の大陸へとその足を進めていた。
今その表情を彩る感情はもうガーランドには分からない、だが恐らく自分の想像と…すれ違った瞬間に微かに自分に向けた怒りを含んだ顔とさほど変わるものではないだろう。
去り行く皇帝の背中を見つめるガーランドの視線が彼らしくもない哀れみを宿していたことを知っている者は…誰も、いない。

「カオス、そして…大いなる意思よ―」

その続きの言葉は胸の中だけに秘めて、ガーランドは皇帝が去っていったのとは逆の方向に向けて歩き出した。
秩序の神に仕えていた者達であれば皇帝の野望を止めることが出来るだろう。
だが、彼らに頼ることはガーランドにも課せられている宿命が許さない。
そこにいるわけでない「誰か」、彼の主であった者たちに向けられたガーランドの呟きは…乾いた風に静かにかき消されていった。


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