Chapter/04+-1/2-






今はまだ機が熟していない―それは逃げ口上でもなんでもなく。
そう、今はまだ―壊れたイミテーションの修復も終わっていないし、野良とでも言うべきイミテーションの掌握も完了しているわけではない。
それが済むまでの間はあまり派手に事を起こすべきではない―それは勿論皇帝にも分かっている。
それでもやはり―

―やはり彼奴を葬るのは一筋縄ではいかぬか…

皇帝にとっては元の世界からの宿命の敵―フリオニール。
力による支配で世界を掌握しかけたその時に、己の野望を断つべく立ち上がった義士―大した存在でないと放って置くことも出来たが、それでも幾度も己の計画を邪魔された記憶が残っている。
今、フリオニールを捨て置くことでこの世界の支配と言う野望の障害となってはならない。皇帝はそれを危惧していた―
そのため、その実力を見極める為に一度イミテーションを伴って戦いを挑んだ…それが、秩序の神の戦士達の本拠地へ彼自ら足を運んだ理由。
しかし伴っていったイミテーションはあっさりと破壊され、結果としてはやはりフリオニールは自分の野望の障害となりうる存在でしかないと確かめるだけに終わったのではあったが。

―あんな坊やを恐れるなんて、あなたも意外と臆病なところがあるのですね―

不意にアルティミシアの言葉が耳に甦る。
言われたときには誰が恐れているものか、馬鹿にするなと斬り捨てたものだが、しかし実際今の状況を考えるとアルティミシアにそういわれても仕方のないことなのかもしれないと…ふと、思う。
何にせよ、フリオニールを野放しにしておいてはまた何らかの形で自分の計画を邪魔されかねない。最終的にどこかの段階で排除しておかなければならない…それだけは確かなことで。
皇帝のプライドの高さが、幾度も自分の計算を狂わせ続けたフリオニールへの怒り、憎悪となって湧き上がってくる。
その、化粧の下に隠された美しくも冷徹な素顔が微かに歪む―皇帝からすればそれはあってはならないこと、決して認めてはならないこと。

「あんな愚民ごときに…」

吐き捨てた皇帝の口調に宿っている憎しみに気づくものはその時そこには誰も存在しなかった―はずだった、しかし。
重厚な足音、そして何かを引きずるような重々しい金属音。それはかつて神々の戦いの最中に何度も耳にしたもの。流石にそれに気づかない皇帝ではない。
足音のした方向にちらりと一瞥を送ると、そこにあったのは想像通り―得物の大剣を引きずり歩み寄ってくるガーランドの姿。

「未だつまらぬ野望に身を焦がすか、皇帝よ」
「…何用だ」

皇帝はガーランドの問いかけには答えず、ただ兜に覆われているその顔を一瞥してみせただけだった。
誰に対しても見下すような彼の視線…神々の戦いの中にあったときから、その視線に対してガーランドがあまり好ましくない感情、言葉にするのであれば「疑念」としか呼べないものを持っていたのは事実ではあった。
事実、皇帝はカオスに使役されながらカオスを取り巻いていた宿命とは違う道を歩んでいた。そのことにガーランドが気づいたのは、戦いの終わりが間近に迫ったそのときではあったが…
自分たちを謀っていたかと、それに気づいたときにガーランドの中で渦巻いていた…それまでは「疑念」でしかなかったものがはっきりと「不信」に変わった瞬間。
今でもそれは変わっていない。寧ろ、風の噂で混沌の大陸に居を構え何事か為そうとしているという話を風の噂で聞いたときにその思いはよりいっそう強まったものだった。
しかしその感情を押し殺すかのようにガーランドはひとつ息を吸い、そして皇帝に向かってはっきりと言い放った。

「貴様がどんな野望を持とうともそれが叶う事はない―輪廻から一度外れたとは言え、この世界はひとつの結末に向けて動いておる」
「輪廻から外れているのであればその結末が変わる可能性もあろう」

ふん、と鼻で笑う皇帝の態度は…一度神々の戦いが終わりこの世界を離れる前と何一つ変わっていない。
尊大なその態度は彼が生まれ持っているものなのだろうか…そもそも、元いた世界でも力による支配を望んでいたという話は聞いている。
そもそも支配欲が強いのだろう、相手が神とは言え誰かに仕えるというのが彼には性に合わなかったのかもしれない。
だが自分が仕えるべき神カオスはもういない、それが皇帝の何かを解き放ったのだろうか…ガーランドがぼんやりとそんなことを考えているのを、きっと皇帝は知らない。


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