Chapter/03-2/3-






元の世界にいた頃に操られゴルベーザに仕えていた…そんな記憶。あの頃のゴルベーザに、自分を案ずるような優しさなど存在しなかった。
それはゴルベーザ自身もまた邪悪なる意思に操られていたからで…その事実を知った後こうしてこの世界で再会したときに、ゴルベーザの人格の変わり方にはカイン自身驚いたものだった。
そんなことを考えているカインの目には映らなかったがゴルベーザはゆっくりとした動きで頭を振った。

「お前に罪を背負わせたのは私だ…私はセシルだけでなく、お前にも償いをしなければならない。私が再び神々の闘争が終わった世界に喚ばれたのはそのためだと思っている」
「…あれは偏に俺の弱さが招いたことだ。償いを受ける謂れなどどこにもない」

地面に突き刺したままの槍を抜き、カインはそこで漸くゴルベーザのほうを振り返る。
その表情は先ほどまでとは全く違う緊迫感に彩られている―カイン自身はそんなことにはきっと気づいていないが。

「そんなことよりも…お前が今の状況に全く気づかないほど鈍いとは俺は思いたくないんだが」
「…分かっている」

こくり、と頷き合ったカインとゴルベーザは自然と背中合わせの姿勢で並び立つ。
彼らに向けられた「殺気」から隙を覆い隠すかのように。
それとほぼ時を同じくして、丁度カインの正面…ゴルベーザの背後に当たるあたりに、上空からイミテーションが舞い降りてきた。

「…奴の差し金か」
「ゴルベーザを狙ってきたんだとしたら…俺がいる今襲ってくるとは運のない奴だ」

カインは小さく鼻で笑ったかと思うと、すぐに槍を構え―目の前に迫りくるイミテーションの剣を、その槍が事もなく弾き返した。
しかし弾き返したのと同時に相応の衝撃が槍を通じてカインの腕に伝わる。どうやらこのイミテーションは相応の力は持っている…らしい。

「面白い」

口の端を軽く上げたカインは槍を再び構え、上空へと高く飛び上がる。それが彼自身の特技…竜騎士として鍛えられた戦技。
重力に任せ、槍の先端をイミテーションに向かって振り下ろす―確かな手応えを持って、その槍はイミテーションを貫いた。
しかし、結晶化した身体の一部をぼろぼろと崩しながらもイミテーションは手にした剣をカインに向ける。大きく振り上げられた剣をかわし、カインは槍を構え力強く振る。

「風よ!」

槍の動きから風の渦が巻き起こり、イミテーションを大きく吹き飛ばす―気は抜けない。このイミテーションは自分が破壊し、今は束の間の休息を取っている仲間を自分が守らなければならない。
今の時間その役割を与えられているのは自分なのだから、と強く思いながらカインは手にした槍を再び振り上げる。
今しがた吹き飛ばしたイミテーションに駆け寄ると地面に突き刺すようにイミテーションに向かって一気に貫き下ろした。

「這い蹲れ!」

その言葉どおり地面に這い蹲る形になったイミテーションに向けてカインは脚を進め、攻撃の手を緩めることなくその槍を幾度もそちらに向けて突き出した。
肩を、首元を、胸を、腹を…人とは違う人形をカインの槍が幾度も襲う。

「貫く!」

衝撃と貫く力に、吹き飛ばされたイミテーションが湖のほとりの岩に激突する。
そのタイミングを見計らったかのようにゴルベーザがカインとイミテーションの間に立ちはだかる…

「下がっていろ」

そしてその刹那、周囲の岩石が浮き上がりゴルベーザの周囲を舞うように回転し始める。
イミテーションの身体が巻き込まれ、ゴルベーザの周りを舞う岩にその身は確実に削られていく…

「…さらばだ」

言葉と共にゴルベーザの周囲から弾き飛ばされた岩がイミテーションの身体を遠く吹き飛ばす。
その衝撃に耐え切れなかった岩石とイミテーションの身体はボロボロと崩れ落ち、その姿は2人の視界から消えた―


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