Chapter/03-1/3-
ゴルベーザとジェクトを「仲間」として迎え入れた彼らはその日、宴とまでは行かないまでもそれなりに賑やかな夜を過ごした。
元いた世界の話に花を咲かせたり、ジェクトが構おうとするのを嫌がるティーダの姿を見ながら笑いが零れたり。
ジェクトは特に、元々秩序の神に仕えていた。そのときの思い出話を最初に持ち出したのは誰だったか―もう、彼らにも良く分からない。
「でも、不思議よね…ジェクトがカオスの側に行ってたって話も私たちには信じられないけど、それでも結果として戻ってきたんだから」
「結局ジェクトは『こっち側』だった、ってことなんだろ?何も難しいことなんかない」
当たり前のようにティファとラグナがそう言って笑い、ジェクトの表情にも彼には珍しい面映そうな笑顔が浮かぶ。
そう言えばあんなことが、こんなことも、そう言えばおれに技教えるって約束はどうなったんだよ、などと話は尽きず。
そして、かつての仲間だったジェクトだけでなく、かつては敵でありながら秩序の神と通じその戦士達を導いてきたゴルベーザのことも―
「あの時お前が言ってたこと、後になって意味が分かった気がしたんだよな」
「ねえバッツ、それ本当に理解してた?」
にこにこと楽しそうにゴルベーザにそう語りかけるバッツに、オニオンナイトが呆れたように一言。
楽しい時間はあっという間、あれやこれやと語り合っているうちに気づけば夜は更けていた。
何故だろうか、いつもよりも仲間達も皆安らいだ表情で過ごしていたような…そんな気さえして。
…彼ら自身も、何故自分たちがここにいるのかをつい忘れてしまいそうになる程に…そのひと時の宴は彼らの緊張した心を解したことに違いない。
そしていつものようにテントを立て、いつものようにそこへ戻っていく…とは言え人数が増えたのでひとつのテントに入る人数が増えていたりはするのであるが―一度「仲間」と認めれば、そこを気にする戦士たちではない。
銘々テントに入って行き、その背中をひとり立ち尽くすようにカインが見守っている。
「どうした、カイン」
「今日の見回り当番は俺からだからな」
クラウドの言葉に短くそう返すと、仲間達が皆テントに消えていったのを確認してカインはそちらに背を向け歩き始めた。
兜に阻まれその表情は誰にも悟られることはなかったが…カインの足取りがどこか普段より重々しく感じられたのは気のせいだったのか―それとも…
誰もそのことに気づかないまま、カインの足音は重く、それでいて静かに野営地に響き始めていた。
少しずつ夜が更けていく。
その夜も、そのときまでは見回りとは言えいつものように平和そのもので―
「…カイン」
野営地のすぐ近くにあった湖のほとりで―得物である槍を地面に突き刺し、月を映した湖面に視線を送っていたカインの背後から聞こえたのは、カインにとっては遠い記憶を呼び起こすように感じさせる声。
敢えてそちらを振り返ることなく、カインの視線は相変わらず湖面に浮かぶ月を捉えている―
水に浮かぶ月と空に浮かぶ月。ふたつの月の姿に、カインの心中に過去の記憶が甦ってくる。それは丁度、今自分の背後にいる男のことも含めて。
「どういう風の吹き回しだ…と聞きたいところだが、操られていたとは言え俺はお前に仕えていたんだぞ。お前の考えそうなことはある程度分かる」
「あの時は…操っていた私自身が操られていたのだがな」
カインが振り返らないことに対して特に何を思うでもないのだろうか―背後から聞こえるゴルベーザの声は普段どおりに落ち着いていて。
困惑、嫉妬、苦悩…全てのネガティブな感情に付け込まれかつて利用されていた。
人としては一番醜い感情の全てをあの頃のゴルベーザには見抜かれていた…様な、気さえしている。
だからだろうか。カインがゴルベーザに対しては取り繕うことを忘れてしまっている気がするのは。
「…守りたいのはセシルか?」
「セシルだけなら良いが…私自身も追われる身、それに私と縁がある以上お前にも危険が迫る可能性がある」
「俺のことなど捨て置けばいいものを」
背中を向けたまま、カインは小さく鼻で笑ってみせる。