Chapter/01+-1/3-






…ゴルベーザとジェクトがかつてコスモスの聖域だった場所にたどり着いていた頃…混沌の大陸、皇帝の居城では。

「どうしたのです。逃げるのを見逃すなんて、貴方らしくもない」

玉座に座ったままの皇帝の肩に肘を乗せ、アルティミシアは皇帝に顔を近づけた―皇帝は答えないし、その表情は変わらない。ただただ、無言でジェクトが空けた大穴を見つめている。
返事がないことに対して不満げな表情を浮かべたアルティミシアは皇帝から身体を離し、そのままいつものゆったりとした動きで玉座の正面へと移動した。
そして腰を落とし、皇帝の前に跪くような格好になり…脚を組んだままの皇帝の膝に片肘をついてその顔を下から見上げる。
そのアルティミシアの動きに対しても皇帝は特に何か興味を示す様子もなく。

「…何を考えているのです?」

それでもやはり皇帝の返事はない。焦れたようにアルティミシアは空いた手を皇帝の方へと伸ばした―そして皇帝のあばらのあたりにその手が触れる。
皇帝を見上げるアルティミシアの目はとても妖艶な光を湛えていて…それでもやはり皇帝は返事をしないし、アルティミシアのほうを見ようとすらしない。
一体何を考えているのか、それは間近にいるアルティミシアには全く分からなかった。
思い悩むようなことがあるとも考えられない。彼の計画に何か障害が起こるようなことなど、何も。それならば今の彼は一体何を考えているというのだろうか。

「…マティウス」
「所構わずその名で呼ぶなと言ったはずだ」

漸く皇帝が返した答えはそんな短いもので、それでも皇帝が話を全く聞いていないわけではなく聞いていながら答えを返さないだけだと確かめたアルティミシアはひとつ息を吐いた。
うっすらとではあるが、逃げ出したゴルベーザとジェクトが考えそうなことはアルティミシアには想像がついていないわけではない。
恐らく彼らはかつて秩序の神の駒だった戦士達の元に向かっているのだろう―ただ、そうだとしたら皇帝がそれに対して何も言わないことに対しての疑問が残る。
彼らを放置しておいていいのかと聞かれれば答えは否。
皇帝がこの計画の「障害」として恐れている人物は自分たちのやろうとしていることを知らない―狙うなら今だというのに。もしもゴルベーザやジェクトからことの詳細を聞けば、警戒されて手も脚も出なくなる可能性もある。
そんなことを考えながら皇帝を見上げていたアルティミシアの腕を皇帝が不意に掴み強く引っ張る―自然、アルティミシアは皇帝に引き寄せられる形となり、そしてアルティミシアの手を引いた皇帝の腕はアルティミシアの腰へと回される。

「案ずるな―この程度のことで狂うような稚拙な計画を立てた覚えはない。そもそも、ジェクトに関して言えば我々に従う気はないだろうと想定していた」
「それは私もです。まさか壁を壊すとは思いもしませんでしたが」
「壁は修理すれば良いし逃げた者は追えば良い…立ち向かってくるものは排除すれば良い。だが―」

皇帝の表情がそこで苦々しいものに変わる。今の皇帝が何を考えているのか…触れ合っているはずのアルティミシアにすら分からない。
自分が思うのと同じことを懸念しているのだとしたら、やはりゴルベーザとジェクトをすんなり逃がしたことに対して納得がいかないのだ。
ただ、その表情のまま皇帝の手がアルティミシアのドレスの中に滑り込む―アルティミシアの方にも別段それに動じる様子はない。
そもそも、言葉すら交わさぬまま強引に彼がアルティミシアを抱くのはいつもの話…そして今もまた、掌は強引な動きで太腿を滑り上の方へと向かう。

「あ〜らら、これはこれは。ボクちんもしかして、お邪魔虫だったりしちゃったりなんかして?」


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