Chapter/15+-2/2-






そこから走る沈黙―先にその沈黙を破ったのは、シャントット。

「あなた、そんな意気地なしでしたかしら」
「輪廻に捕らわれたままの哀れな戦士がひとり、所詮足掻いても変えられぬことに無駄な労力を費やしているだけの話だろう―俺が出て行ったところでどうなるものでもない」

背後で聞こえたシャントットの溜め息―それはある意味、ガブラスにとっては予想の範疇とも言えるものだった。
だが、シャントットに今何を言われようともガブラスの気持ちは変わることはない。神々の駒として戦っていた時も、今も…何も変わってはいない。神々の戦いで何も出来なかったガブラスに、今何かが出来るはずがない―ガブラスを支配するのはそんな、仄暗い諦念のみ。
そして聞こえた足音とともに、シャントットは再びガブラスの正面へと足を運ぶ。腰に手を当て、真っ直ぐにガブラスを見上げていたシャントットであったがそれ以上ガブラスの言葉がないことで、彼の意思が変わることはないと悟ったのだろうか、再び大きく溜め息をついた。

「神々に使い捨てられ、挙句神々のいない世界でもこうして全てを諦めて…駄々っ子と変わりはありませんわね」
「…他に用がないのなら立ち去れ」

これ以上、シャントットと話す事などない。再び背を向けることでその意思をはっきりと示したガブラスに向けられたのは…深い深いシャントットの溜め息。
もう、今のガブラスにはその溜め息の意味を考えることさえ放棄していた。これ以上シャントットに何を言われても、自分の答えは変わらない―出来ることなど何もない。

「かつて、神の領域にひとりで攻め込んできたあの時の気概はすっかりなくなってしまったようですわね」

今までのシャントットの口調とは違う、低い声音で呟かれたその言葉に対しても、ガブラスは返事を返さなかった。
立ち去れと言っているのに何故彼女は立ち去らないのだろうか、それが逆に気にかかりはしたものの―これ以上、シャントットと関わりを持つ気すら今のガブラスにはなくて。それをシャントットも汲み取ったのだろうか、小さな足音は少しずつガブラスから遠ざかっていく。
その最中、足音が止まり―背中に再び視線を感じる。シャントットはきっと振り返ったのだろう、そう思いはしたがそれに対してもガブラスは何を言うでもなく。

「犬にだって鋭い牙はある―わたくしはそう思うのですけれど?」

放たれた言葉に、答えるべき言葉をガブラスは持ち合わせていなかった。
シャントットが言いたいことが分からないわけではない、だが―ガブラスにはとっくに分かっている。自分に生えていた牙など、神々の戦いの真実を知ったその時に既に折られてしまっていることを。

「…立ち去れと言っているのが分からないのか」

それ以上、言葉にはならなかった。これ以上シャントットと話をしていても殊更惨めになるだけなのはガブラスが一番良く分かっているのだから。
俯いたままのガブラスの耳に聞こえるのは、もう幾度目か分からないシャントットの溜め息―

「―己の為すべきことはこのひずみの中で拗ねているだけ、と言うことかしら。どうやらわたくしはあなたを過大評価しすぎていたようですわね」

溜め息に混じって呟かれたその言葉とともに遠ざかる足音、そして小さな声での魔法の詠唱―やがて、シャントットの気配はそこから消えた。
ガブラスひとりになった「地獄」に響くのは、そもそも聞くものもない―だが、誰かがいたとしてもきっと聞こえなかった程度の小さな小さな呟きだった。

「今更―俺に出来ることなど…」

そして再び、その場を支配するのは静寂。
そこには剣を握り締めたまま俯くガブラスの影がただ、長く伸びているのみだった。


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