自覚-side/L- -1/2-






「ねぇ、ライトってさ」

何か用があって自分を迎えに来たらしきティファはライトニングの腕を引いて歩きながらニコニコと楽しそうに笑っている。
その笑顔が意図するものがつかめず、ライトニングは眉根を寄せた。

「一体なんだ」
「最近、フリオニールと仲いいよね」

確かに言われてみればここ最近、フリオニールと一緒に行動することが多いような気はする。
勿論、フリオニールのあの花を見ていたいと言う気持ちがあるからこそ、ではある。
しかし、他人から見て仲がいいと見えるほど一緒に行動していたつもりはないのだが、と思いながらもそれを口には出さず。

「ねえ、もしかしてライトとフリオニールって…」
「私とフリオニールがどうかしたか」
「付き合ってたり、とか?」

無邪気と言うかなんというか、仮にそうだとしても張本人に真っ向から聞くものだろうか。
無論、そんなことはないのでライトニングは小さく首を横に振る。
ティファはそれをみて少し残念そうな表情を浮かべる―何が残念なのかはライトニングには皆目検討がつかないが。

「…フリオニールと私の元の世界での記憶に通じるところがあったから、何か思い出せないかと話をしていることが多かっただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そうなのかぁ。残念」

何が残念なんだ、と言いかけたが返ってきそうな答えを想像しただけで頭が痛くなったので言葉を止めた。
ティファもまた元の世界の記憶を殆ど失ってしまっている。しかし彼女には何故か自分たちほど元の世界の記憶に対して執着がないようにライトニングは思っていた。
だから恐らく、彼女に対してこの話をしても解ってはもらえないだろうとも。

「でもさ、服装とか見ててもフリオニールとライトって全然違う世界から来た様に見えるのにね。共通するような記憶があるなんてなんか不思議」
「ああ…それはそうかもしれないな」

かすかにしか残っていない元の世界の記憶を辿ってみても恐らく…フリオニールのいでたちから想像できるような世界に自分がいたわけではない―それはティファの言うとおり。
だからこそ共通する記憶―彼の手の中にある、名前すら思い出せない花がどこで繋がるのかすら想像がつかない。
他にも沢山の仲間がいるが流石に花の咲かない世界はないだろう。
しかし、それでもどう考えても重なり合うはずのない2つの世界から呼び出された2人の人間が同じ花に記憶を呼び覚まされるとは偶然としてもかなりの奇跡的な確率ではないのか、と。

「…ライト?」

ティファに名前を呼ばれてライトニングは思考の迷宮から現実へと戻ってくる。

「どうしたの、ブツブツ言っちゃって」
「いや、大したことじゃない。ところで私に用とはなんなんだ」
「ああ、そうそう…」

ティファの話に耳を傾けながらも、ライトニングの頭の中には先ほどから浮かんでは消える考えがずっとわだかまりのように残ったままだった。


それから、数日後。
ライトニングはその日もまたフリオニールの姿を探していた。
別にフリオニールがいたからと言って何をするわけでもなく、どうせ互いに何を言うでもなくあの花を眺めているだけなのだが…それでも何故か、無意識にフリオニールの姿を探すことは増えた気がする。
そう言う意味では先日ティファが言っていた「最近仲がいい」と言う言葉はあながち的外れでもないのかもしれない。

―付き合ってたり、とか?

ティファのその言葉が耳の中に不意に甦る。
そう言うことではないのだが、そう見えても不思議ではないのだろうか。
それならばフリオニールの迷惑になってもよくないし、あまりフリオニールと一緒にいるのも良くないのかもしれない…
そんなことをぼんやりと思いながら歩いている―その時、遠くに見える姿。

「あれは…」

武器を構えるフリオニールの姿…ライトニングからは丁度岩陰になっていて見えないが、誰かがフリオニールと対峙しているというのだけはフリオニールの身を包む気配から感じる。
そして、遠くから見てもはっきりと解る―普段のフリオニールとは全く異なった表情。
誰と戦っているのだろう。
もしもカオスの戦士だとでも言うのであれば助太刀しなくては。
そう決断するのに、一瞬を要したかどうかすらもわからない。ライトニングは弾かれたように立ち上がって走り出していた。
しかし、ライトニングがたどり着くよりも前に…蒼い炎の弾がフリオニールに直撃し、その衝撃でフリオニールは大きく後方に吹き飛ばされる。

「フリオニール…!!」

自然、脚が動くのが早くなる。
フリオニールが誰かに襲われた、その事実だけで激しく動揺している自分に…気付かない、振りをしながら。

「…仲間が来たか。まあ良い、今日はこの辺にしておいてやろう」
「待て、こ…」

そんな声だけが聞こえてきたが、ライトニングがフリオニールの元にたどり着いた時にはそこにはもう誰もいなかった…
いたのは、よろよろと立ち上がろうとしてまた倒れ伏したフリオニールの姿だけ。
ライトニングは脚がもつれそうになるのも構わずフリオニールに向かって一心不乱に駆け寄り、その身体を抱き起こした。
命に別状があるようには見えなかったが、それでもフリオニールは深く傷ついている。
ライトニングはゆっくりと魔法を詠唱する…ケアルの力でフリオニールの身体の傷は少しは癒えたようだが、それでも彼は気を失ったままだ。


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