自覚-side/F- -2/2-






「何?オレ図星突いちゃったりした?もしかしてフリオニール、マジで恋してたり?」

何か面白い物でも見つけたとでも言いたそうなジタンの表情に、フリオニールは大げさとも言えるほどに首を横に振る。

「だから違うって!俺は気になるものはあるとは言ったけどそれが人だとは一言も…!」

そんなフリオニールの否定の表情をみて何かを思い出したのか、セシルの表情に柔らかい笑みが浮かぶ。
言葉にするのであれば、「わかったよ」とでもいいたそうに。

「…それってもしかして」
「なんだよセシルまで、だから違うって言ってるだろ!」

セシルは多分先日の一件で盛大に勘違いをしたままだ。
いや、あの段階では確かに勘違いではあったのだが…本当にそれは、今も?

「何、セシルはなんか心当たりあんの?」
「ないわけじゃないけど、それは僕の口から言っていいことじゃないよ。ね、フリオニール」
「…だから違うって」

はぁ、とフリオニールはひとつ息を吐いた。
そう、違う。
確かに気になっているのはライトニングではあるのだけれど、この気持ちは恋とかそう言うことじゃなくて。
一言で言うとしたら、同じものに同じように懐かしさを感じている―そんな、特別な仲間意識。
だからこの気持ちは恋とかそう言うものじゃなくて、セシルの勘違いはやっぱり勘違いでしかなくて。
一生懸命自分にそう言い聞かせながら、フリオニールは皿に残ったスープを飲み干した。


その夜。
月がゆらゆらと輝く湖のほとりで、いつものようにフリオニールはひとり“のばら”を見つめていた。
早く、記憶を取り戻さなければいけない。
そしてこの花をライトニングに譲らなくてはいけない―
輝いているようにすら見える“のばら”の花の向こう側に、ライトニングの顔が見えた気がしてフリオニールはぶんぶんと首を横に振る。
「…だから、違うんだ。そう言うことじゃなくて」
目の前に浮かんだライトニングの幻影を振り払うようにフリオニールは目を閉じる。
しかし、浮かんでくるのは花を見つめるライトニングの笑顔。
今まで見たことのなかったような柔らかなその表情…もしも彼女がその表情を、自分に向けてくれたなら…

「…違う」

声に出してはみたものの、その声はか細くて―すぐにかき消されて。
違う。本当に?
本当に違う。じゃあ、どうして?
理由なんてない。そんなはずない。
理由なんてあるわけがない。…ある。たったひとつだけ。

繰り返される自問自答の中で、フリオニールの中にはひとつだけ…全ての答えとなる言葉が浮かんでは消える。
思い浮かんでは否定するその言葉は、否定すればするほどフリオニールの中に鮮やかに色づいていく。

「恋…なのか、これが」

思えば誰かにこんな感情を抱いた記憶などない。
勿論、元の世界にいた時にはそんなことがあったのかもしれないし、本当に全くないのかもしれない。
だから、認めるのが怖かった。自分が抱いている感情が恋であるということを。

「俺は…ライトのことを…」

呟いて、目を閉じる。
思い浮かぶのはやはり、“のばら”を見つめるライトニングの横顔。
あの時みせた柔らかな表情に強く心を惹きつけられた。
願わくばもっと色んな表情を見てみたい―そう感じる心、それが「恋」だと。
認めてしまえばあまりにも簡単で、それでいて…一番受け容れられない想い。

彼女は、仲間だ。
自分が男であり彼女が女である、それ以前にこの世界を守る為に共に戦う仲間だ。
きっとこんな想いを抱いているのは自分のほうだけで、ライトニングにとっては自分は仲間でありそれ以上でもそれ以下でもない。
そして、彼女にも自分にも帰るべき世界がある。
この気持ちが本当に恋だとしてもそれは―結ばれることのない想い。

「…恋ってもっと、幸せなものじゃないのか…?」

ごろりと身体を倒し、遠くに月を見遣りフリオニールは唇を噛んだ。

「…ライト、俺…」

気付かない振りをし続けていればよかったのかもしれない。
だが、気付いてしまった以上もう無視することは出来ない想い。

「………ライト………」

もう一度その名を呼び、フリオニールは目を閉じた。
瞼の裏に甦るライトニングの横顔を想いながら―


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