終章-4/4-






記憶の中でひらひらと舞い散る薔薇の花びらが、胸の奥にいた「彼女」をしっかりと彩って…そしてフリオニールの心の中に、強くその姿を焼き付ける。
心の中で欠けていた「何か」が埋められていき、はっきりとその姿が形を成す―!!

「…ライト…俺…!!」

フリオニールは弾かれたように駆け出していた。
そして、フリオニールを視線で捉えたまま硬直している「彼女」の腕をしっかりと掴む。
そのまま引き寄せて、その身体を腕の中に収めた…
間違いない。
抱きしめたぬくもりを、この腕が覚えている。

「…嘘だろう…どうして…」

抱きしめられたまま自分の胸に顔をうずめている「彼女」は信じられないと言うように呟いてみせた。
確かに―自分のことは忘れてくれと、そう言われていた。
だがその時に自分がなんと答えたか…そんな些細なことまでも今、はっきりとフリオニールは思い出していた。

「俺、言ったよな。『例え全てを忘れたとしても絶対に君のことだけは思い出してみせる』って」

鮮やかに色づいた記憶がフリオニールの中に溢れ始める。
その姿が、声が、ぬくもりが…そしてその全てを内包した愛しさがフリオニールの中に戻ってくる…
腕の中にいる「彼女」…ライトニングの頬に手を添え、自分の方を向かせるとフリオニールはその瞳を真っ直ぐに見つめた。
今言わなければならないことは…たったひとつ。

「愛してるよ、ライト…俺は誰よりも君を愛してる」
「…私だって…」

言葉と共にライトニングの空色の瞳から雫が零れ落ちる。
フリオニールにとっては初めて見ることになるライトニングの涙。考えるよりも先に、フリオニールの手はその涙を拭っていた。
その手にライトニングの手が重なり、きつく握り締められる。
その力よりも更に強く、ライトニングの唇からは言葉が溢れ出していた。

「私だって…お前を愛している、フリオニール…!!」

もう、言葉はいらなかった。
ぶつかり合った視線は自然と引き寄せられ、それが当然であるかのように唇が重なる…
触れ合った唇の温度が、まだくすぶっていた記憶を次々と呼び起こす。

「ライト…」

離れた唇が愛しくて仕方ないその名を呼び、フリオニールは瞳を閉じる…そして、手の中に甦るのは「あの花」。
先の戦いで自分にとって夢の象徴だったこの花…そして、今取り戻した記憶。
ライトニングとの約束の象徴だったその花を、しっかりとその手に握り締める。

「俺、一度元の世界に還って…全部思い出したんだ。だから…」

何の躊躇いもなく、手にした花をライトニングの目の前に差し出した。
空色の瞳が、深紅を映していつもと違う色に染まる。そしてその瞳が今度はフリオニールを捉えた。
真っ直ぐな視線にフリオニールはただ、笑顔を返す。

「少し遅くなったけど…受け取ってくれるよな?」
「…受け取らない理由がないだろう」

ライトニングが花を手にしたのを確かめて、フリオニールはそっと手を離した。
ずっと心の中のどこかにあった、うすらぼんやりとした違和感が―守れなかった約束がようやく果たされたことでフリオニールの中から静かに消えてゆく。
手渡された花を見つめ、ライトニングの表情には微笑みが浮かぶ。そしてその微笑みはフリオニールに向けられた。
そこでフリオニールは再びライトニングの頬に触れる…ライトニングが瞳を閉じたのを確かめて、フリオニールはもう一度唇を重ねる。

何故今自分がこの世界にいるのか、それは分からない。
だが、それでも…ライトニングともう一度巡り合えた、それだけでフリオニールには理由なんて必要なかった。
…寧ろ、それが理由だったのかもしれないなんて事を思いながら…ふたりはただ、取り戻した愛を確かめ合うように抱きしめあっていた―


[continue to "000"―]




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