終章-2/4-
そうして暫し歩いていると、遠くから見覚えのある姿が見える―その隣にはやはり、見覚えのない「誰か」がいて。
先方もフリオニールに気付いたのだろう、彼のいつもの柔らかな笑顔が浮かび、自分に向かって大きく手が振られる。
「フリオニール!」
「セシル、お前もやっぱり戻ってきてたのか」
そちらに駆け寄ると、セシルは少し首を傾けて見せる―そう言えば彼にはこんな癖があったと、ティーダが頭を掻いた時と同様に思い出していた。
「どういう理由で戻ってきたのかはさっぱり分からないけどね」
「それは俺もだよ。それにしても」
フリオニールはちらりと、セシルの隣に立つ人物に視線を送ってみせた。
元の世界にもこのような甲冑を纏った人間はいた…そして、その人物と同じようにその手には槍がある。
元の世界で出会った彼と同じであるのならば、彼は…竜騎士。
それはどうにか理解できたが、しかし目の前のその人物を特定できる記憶はフリオニールの中にはない。
「やはりお前も覚えていないようだな」
低く落ち着いた声でそう問われ、フリオニールの中に申し訳なさが沸き起こってくる。
いくら自分だけではないと言われても、先方が自分を知っているのにこちらは先方を知らないと言う状況は気まずいものであることに変わりはなくて。
どう言葉を返したものかと逡巡していたところでセシルが助け舟を出す。
「彼はカイン。僕の元の世界での親友で…僕もそのことは忘れてたんだけど、僕たちが覚えている戦いよりも前に僕らと一緒に戦ってたんだって」
「ああ、さっきティーダからもそう言う奴らがいるって話は聞いた」
「じゃあ、ティーダもいるんだね?僕らはまだ、さっきジタンに会ったところで他の仲間がいるかどうかもよく分かってなくて」
セシルの言葉には頷いてみせたが、フリオニールには気にかかっていることがひとつあった。
セシルの隣に立つカインが…顔の大半を覆う兜を被っているので表情を見て取ることはできないのだが、それでもどこかその様子に落ち着かないところがあって。
「あの、さ…カイン、だっけ。俺全く覚えてなくて…ごめん」
「いや、俺のことは構わん」
そこでカインが一瞬躊躇ったように見えたのは―気のせいだろうか?
しかし、数瞬の間の後カインは再び口を開いた。
「寧ろお前に謝るべきは俺の方だ」
「謝る?…俺に?どうして…」
無論…目の前にいるカインそのもののことを覚えていないのだから理由を聞いても仕方ないのは分かっている。
カインのほうもそれは分かっているらしい、フリオニールの言葉に首を横に振った。
今はまだ、聞いても仕方ないのだろう―そう考えていると、カインの口がゆっくりと動く。
「…お前がもしも『あいつ』のことを思い出すことができたとしたら…その時に話すさ」
「『あいつ』って…」
カインの言葉の意味を探って記憶の糸を手繰るが、それでもその先には何もなくて…ただ、思考の糸車はからからと音を立てて回るだけで。
そのフリオニールの様子を見ているカインからはやはりどこか申し訳なさそうなものすら感じる。
「とりあえず、行こうかセシル」
カインがそう言ったのはもしかしたら…これ以上自分と一緒にいるのが気まずいと思わせてしまったのではないかと不意にフリオニールは申し訳なくなっていた。
だが、彼らと別れるとするならば先に伝えておかなければならないことがある。
「あ、そう言えば他の仲間に会ったら『2日後に聖域だった場所に集合』って伝えておいてくれって、ティーダが」
「ああ、分かったよ。君はひとりで行くのかい?」
フリオニールの言葉に笑顔を返したセシルに、フリオニールは大きく頷いてみせる。
「なんかこう、落ち着かないんだ。自分のことは知っているのに自分はその人を覚えてないってのがなんだか申し訳なくて…何か思い出せるまでちょっとひとりで行動してようかと思ってる」
その言葉を聞いたカインが動揺したように見えた―のは、フリオニールの見間違いだろうか。
勿論、思い出さなければならない対象にはカインも含まれているわけだがそれとはまた違う「何か」を一瞬だけ感じる。
「…僕もカインのことしか思い出せない気がするけどね」
苦笑いを浮かべながらも、セシルはフリオニールに向かって手を挙げてみせる。
「じゃあ、次に会うときは聖域だった場所…になるのかな」
「ああ、気をつけてな」
そして2人に背を向けて、フリオニールは再び歩き始めた。
カインの様子が引っかからないではなかったが、それよりも今は他の仲間を探す方が先決だろう。