終章-1/4-
「…ここは…」
目を覚ましたフリオニールは現在おかれている状況に明らかな違和感を覚える。
そもそも何故自分は屋外にいるのだろう。
確か反乱軍の本拠地で、戦いの合間の休息をとっていたはずなのに。
ゆっくりと立ち上がってきょろきょろとあたりを見渡す―そのフリオニールの目に映ったのは―真っ白な塔。
少なくともここがフィン王国でないことはそれだけで明らかだった。あれが存在するのは、確か…
「…待て…どういうことだ」
自分は、そしてあの時共に戦った仲間たちは間違いなく神々の戦いを終わらせ、そして自分は元の世界へ還ったはずだった。
神々の闘争とは違う、支配からの解放を目指す戦いの中に再び身を投じていた…それは間違いない。
何せ、目を覚ます前の記憶は反乱軍の本拠地にいるところ、なのだから。
では…それなのに何故、今自分はまたこの世界にいるのだろうか?
「…あれ?フリオニール…フリオニールだよな!?」
はっきりと聞き覚えのある声がして、フリオニールはそちらに顔を向ける―自分に駆け寄ってくる声の主は間違いなくティーダで、やはり自分がいるのがかつて神々の闘争の舞台となった世界であることを改めて悟る。
「ティーダ…これは一体どういうことなんだ」
「オレに聞かれても分かんないっスよ」
ティーダは頭を掻きながら答える―ティーダのその癖が、どこか懐かしくも感じる。
元の世界に還っても色あせることのなかった戦いの記憶が、目の前にいるティーダの存在にはっきりと呼び起こされる…
「ティーダ、走るの早いよ…でも良かったね、フリオニールが見つかって」
そのティーダの後ろから、聞き覚えのない女性の声が聞こえた。
そちらに視線を送ると…明らかに、自分の中の「戦いの記憶」に存在しない誰かがそこに立っている。
自分は彼女を知らないのに、何故彼女は今自分の名を知っているのだろうか。
「すまないティーダ、彼女は…誰だ?」
フリオニールのその問いかけに、ティーダは諦めたような表情を浮かべる。そして、ひとつ溜め息をついた。
「やっぱお前も覚えてなかったかー。ま、気にすんなよユウナ」
そしてティーダは、今しがた自分がユウナと呼んだ少女の肩に手を置く。
肩に手を置かれた方のユウナは真っ直ぐにフリオニールを見つめた―その瞳は左右で色が違っていて、そんな人物が記憶の中にいればすぐに思い出せるはずだと感じさせたがやはりフリオニールの記憶の中に彼女の姿が呼び起こされることはない。
「この子はユウナ。オレと同じ世界から来たんスよ。で…お前とも一緒に戦ってたことがある、らしい。オレはその辺を覚えてないからよく分かんないんスけど」
「あ、でも…私たちを覚えていないのはフリオニールだけじゃないから、気にしないでくださいね」
「私…『たち』?」
状況を考えると、私「たち」の範囲に含まれるのはティーダではないだろう。
つまり、他にも…自分の知らない「誰か」がいると言うことで。
思案しているフリオニールの考えていることがなんとなく分かったのか、ティーダが説明するように言葉を放つ。
「さっきクラウドが知らない女の子連れてるの見たっスよ。あと、スコールが髪長い兄ちゃんに懐かれてるのも、ティナとネギ坊主が知らないヤツに絡まれてるのも見たな。ユウナに聞いたらやっぱりそいつらも仲間だったんだって」
「でも、皆私たちのことを覚えていないんです…私たちは一度、『消えた』存在だから」
そう呟いたユウナの声はどことなく寂しそうに聞こえて。
「消えた」、と彼女は言ったが…それは一体どういう意味なのだろうか。
「ま、何にせよオレがユウナを覚えてるから大丈夫!」
「…ありがとう、ティーダ」
目の前にいる2人の空気はどこか甘く…もしかして、今自分がこの2人と一緒にいるのは邪魔をしていることになるのではないかとフリオニールはふと心配になった。
しかしそんなフリオニールの心配をよそに、ティーダはにかっとフリオニールに笑いかける。
「とりあえず、他にも仲間だったヤツらがいるかもしれないから皆で探そうって話になってるんスよ。だからフリオニールも、誰かに会ったら『3日後に、聖域だった場所に集合』って伝えておいてもらえるとありがたいっス」
「ティーダ、バッツからその話聞いたのは昨日だからもう2日後だよ」
小さく笑いながらユウナが訂正して、ティーダは「いけねっ」などと笑いながら頭を掻いた。
…やはり自分は、この2人と一緒にいてはいけない気がする。
そんなことを思いながらフリオニールはひとつ頷いてみせた。
「わかった、ありがとう。じゃあ、2日後にまた」
「ああ。他の奴らによろしくな!」
大きく手を振るティーダとその隣にたたずむユウナに見送られ、フリオニールは歩き出していた。
他の仲間たちを探すと言うのなら自分も協力するべきだと当たり前のように思っていたし、それに…やはり、今のティーダたちと一緒にいると自分がただのお邪魔虫にしか思えなかったから。