自覚-side/F- -1/2-






手の中にある“のばら”を見つめ、フリオニールはふと物思う。
“のばら”―その名を聞いたときに感じた懐かしさは一体なんだったのだろう、と。
この世界にやってくる前の記憶、真っ白に抜け落ちたその中に薄らぼんやりと咲いている気がする“のばら”。
この花を見ていたらいつか思い出す日が来るかもしれない―ラグナにそう言われ、暇があればその花を眺めているのだが…記憶は戻ってくる気配すらない。

「どうだ、何か思い出せたか」

いつものごとく“のばら”を見つめるフリオニールの背後からそんな声が聞こえる。

「ライトか…いや、まだなんだ。すまない」

自分が全てを思い出したらこの花を譲る―この花の中には、自分にとってそうであるようにライトニングにとっても大切な記憶が詰まっている、らしくて。
その話を自分にしてくれた時のライトニングの、今までに見たことのなかった笑顔をふと思い出してフリオニールは申し訳なさそうに頬をかく。

「いや、責めるつもりはないし焦ることもないだろう。それに」

ライトニングはフリオニールの隣に腰を下ろし、その手の中の“のばら”に視線を向ける。

「今は私のものでなくても、こうして私もこの花を見ていることは出来る」
「ああ…そうだな」

初めて会った時の張り詰めた雰囲気とは全く違う、どこか柔らかくなったライトニングの表情を眺めながらフリオニールは“のばら”をライトニングにもよく見えるようにそちらの方へ差し出す。
ありがとう、と小さく呟いてライトニングは懐かしそうに“のばら”を見つめる―そこに浮かぶのはかすかな微笑み。
彼女は、こんな表情で笑う人だっただろうか。
いつの間にか“のばら”よりも、ライトニングから目が離せなくなる。
―何を考えてるんだ、俺は…
そう思いながら“のばら”に視線を戻すが、それでも気付けば視線がライトニングに引き寄せられる。
怜悧で、強さを秘めていて…時々優しい、その瞳から目が離せない…
それは丁度、薔薇の花が芽吹くように。
フリオニールの中に突如首をもたげた感情…

「ライト、ちょっといい?」

フリオニールの意識を引き戻したのは、背後から聞こえてきたティファの声。

「ティファか、どうした」
「あのね…あ、ごめんねフリオニール。もしかして…邪魔、しちゃったかな」
「邪魔なんて、そんな」

首を横に振るとティファはその言葉を素直に信じたのか、座ったままのライトニングの手を引いて立ち上がらせる。
フリオニールは無意識に“のばら”をティファの目に見えないように隠していた。
ライトニングには成り行き上話をしなければならなかったが、それでもやはりどこか花を大切に持っていることに気恥ずかしさがないわけではなく…それに。

この花のことを知っている人間が他にもいないではなかったが、それでも…ライトニングと2人の「秘密」があるようなそんな気がしてそれがなんだか嬉しかった…から。


「何かが気になって仕方ない?」

フリオニールの言葉に、セシルは首をかしげる。

「ああ、そうだ。何故だか解らないが、気になって仕方がない…それも、ついこの間まではそんなことは全く思っていなかったのに、だ」

流石に大人数になるので、野営をするにしても全員で食事と言うわけには行かない。
この日、フリオニールはバッツやセシル、ジタンと食事を共にしていた。
その時にフリオニールは、先日の一件のことをふと思い出し口にしてみたのだった。
違うことを考えていたはずなのに気がついたら別の何かが気になって仕方がない、と。
“のばら”のことであるともライトニングのことであるとも一切言わずに。

「でもたまにあるよな?俺こないだ、カインの兜のふさふさがなんか絡まってるのが気になってしょーがなくてさ」
「…よく見てるなあ」

のほほんと的外れなことを言うバッツに苦笑いを向けるセシル。
そう言うことが聞きたいわけではないのだが、とフリオニールの表情にも苦笑いが浮かぶ。
ジタンだけは1人、何かを思うようにフリオニールの顔をじっと見つめ…悪戯っぽく、にぃっと笑ってみせた。

「その、気になる『何か』ってのが女の子なんだったらそれは間違いなく恋なんだろうけどなー」
「えっ、いや、違う!違うんだ、そう言うのじゃなくて!」

フリオニールは大げさに否定する。
いきなり図星を突かれるとは思ってもみなかった、その焦りからぶんぶんと手を横に振り、首まで合わせて横に振る。

「そうやって必死に否定するところがなーんか怪しい」

普段は能天気なくせにたまにバッツは核心を突く。別にそれが悪いとは言わないが、何もこんな状況で核心を突くことはないだろうと恨み言のひとつも言いたくなる。
言った方のバッツはどこか得意げな表情で、ジタンもフリオニールの反応を見てニヤニヤと楽しそうに笑っている。


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