覚悟-3/3-
その痛みは自分が背負うべき「罰」。この想いのまま戦えないとフリオニールへの想いをぶつけて…やっと通じ合った想いを自ら断ち切ってしまったことへの。
自分はそれでよかったはずなのに、そこにあるべきフリオニールの想いを全く考えず…フリオニールを傷つけてしまったことへの罰―
唇と心に―あの時確かにフリオニールの愛を感じていたふたつの場所に強い痛みを感じながらライトニングは俯いた。
それでもカインの静かな声はまだ続く。
「俺はお前とフリオニールの間に何があったかまでは知らないしお前が話したくないと言うのなら聞くつもりもない。だがフリオニールは…」
「………私だってあいつを愛している…いや、愛して『いた』と言った方が正しいだろうな」
言い直した言葉で、ライトニングは改めて決意していた。
フリオニールを傷つけてしまったのだとしたら、余計にこの想いは断ち切らなければならないと。
これ以上フリオニールへの想いを引きずってはいけない…愛しては、いけないと。
自分の中にフリオニールへの想いが間違いなく存在しているからこそ、これ以上フリオニールを愛していてはいけない。
純粋で、律儀で…自分との約束を破ることなど全く考えてもいなかったフリオニールにその意思に反して約束を破らせてしまった…傷つけてしまった自分にはもう、その資格はないから。
確かめるようにひとつ頷き、ライトニングは振り返った。そしてカインを真っ直ぐに見据える。
「もう断ち切った想いだ。仲間たちの…そして、あいつ自身の為に。…私に後悔はない」
「…強いな、お前は」
強くなんてない。
後悔はないと言っていてもライトニングの中にフリオニールを傷つけたことを悔いる気持ちが全くないと言えば嘘になる。
しかし今のライトニングにはたった一つの救いがあって…
「あいつは…目覚めたら私のことを忘れているだろう」
「ああ…そうだろうな」
「…あいつが私のことを、私が傷つけてしまったことを全て忘れてくれるならあいつは次の戦いでその傷を抱えたまま戦うこともない」
愛する人に忘れられること、それはともすれば普通に考えればとても辛いことなのかもしれない。
だが―愛しているからこそ、フリオニールには自分のことを思い出してほしくなかった。次の戦いで、自分を振り返らずに前だけを向いて戦って欲しかった―
「それにあいつはそんなに弱くない…私を引きずって戦えなくなるような男ならそもそも私はあいつを愛してはいない」
それだけ言うとライトニングは一度目を閉じてその瞳の裏にもう一度だけその姿を映す。
自分を見つめる真っ直ぐな瞳、照れたように笑うその表情、自分を呼ぶ優しくも芯の強い声、自分を抱きしめた腕の強さ―その全てをもう一度だけ思い出す―
目を開いたライトニングの表情は…自分でもはっきりと分かるほどに先ほどまでとは違っていた―
もう、迷わない。
もう、思い出さない。
あとは目覚めた彼が自分を、そして自分がつけた傷のことを忘れていればそれでいい。
「…話は終わりだ。行くぞ、カイン」
ライトニングはそのまま脚を進め、カインの横をすり抜けて他の仲間たちの元へ。
その後ろからカインの足音が聞こえてくる。
「無理はするなと言いたいところだが全く無理をしていなさそうだな」
「ここで躊躇ってしまったら私は何のためにあいつを傷つけるような真似をしたのか分からなくなるだろう。そもそもそれはお前だって同じじゃないのか」
「…正論すぎて言い返せんな」
小さく笑ったカインの方は見ないまま、ライトニングは真っ直ぐに前を見て歩き始めていた。
その瞳にもう迷いも揺らぎもない。
彼女が見据えているのは一点、仲間たちの未来だけ。
もう迷わない。
もう一度ライトニングは心の中でそう呟いて…真っ直ぐに、歩き続けていく―
背後から聞こえていたはずの足音が一瞬止まり、ライトニングはカインを案じて一度振り返る…が、カインは何も言わず首を横に振った。
それを確かめるとライトニングは再び歩き始める。
「…恨むのなら、俺を恨めばいい」
カインの呟きは、ライトニングの耳に届くことなく―風と…2人を迎え入れる仲間たちの声に静かにかき消された。