詫言-3/3-






「フリオニール、先に行ってくれ」
「カイン…どうした?」

自分の背後で急に足を止めたカインを一度振り返り、フリオニールは首を傾げる。
兜に阻まれその表情は見えない。だがそこには先ほど見えなくなった違和感を再び感じて…
一体なんだというのだろう。この違和感は。

「背後から敵の気配を感じる…挟まれると厄介だ」

そのカインの言葉にもしかして、さっきからカインに感じていた違和感はそれだったのだろうかとフリオニールは思い当たる。
敵襲に気付いていたからこそ、違うことを考えていたような気がしたのだろうか。
そう考えればそれはとても納得の行くことだし、ほんの少しでもそれを疑問に感じたことや気配に気付かなかったことが少し恥ずかしくもあり。
それを誤魔化すようにフリオニールはカインに笑いかけてみせた。

「分かった。前方の守備は任せてくれ」
「ああ、頼む」

そして、前方から何か来ないかと気配を集中させる―背後はカインが守っているから安心だと、全く何も考えずにそう思いただ前だけを見つめる。
背中を守る仲間がいることは心強い…そんなことをふと思ったりもしながら。
だから…カインが守っているはずの背後から受けた大きな衝撃に、フリオニールは虚を突かれた様に倒れこむ。

「が…っ…」

振り返った先には―そこにあったのはフリオニールにとっては信じられない光景。
槍を自分に向けて振り上げるカインの姿…そしてその槍は、避ける間もなく自分に向かって振り下ろされる…
刺されたわけではないが、柄の部分で強かに背中と首筋を殴られる。その衝撃で一瞬にして目の前が溶暗してゆく…
そこへとどめの様に振り下ろされた槍。口から吐き出した生暖かさ、鉄の味を感じてそれが血であることに思い至る。
やっとの思いで顔を上げる、そこにあるのは自分を見下ろすカインの姿―他には誰もいない。
間違いなく、自分を攻撃したのはカインでしかなくて。

「カイン…どうして」

今のフリオニールはそう言葉にするのがやっとだった。
味方のはずのカインに、仲間のはずのカインに…ここまで本気で攻撃をされた理由が全く分からない。
いっそ自分が憎まれているのであればよかった、逆にそんなことさえ考えてしまったのに…兜の下から見えたカインの表情には憎しみなんて欠片も見つからない。
…寧ろ苦しんでいるようにすら見えて、それがフリオニールには余計に理解できなくて。

「すまんな、フリオニール」

カインの口から滑り出たのは謝罪の言葉―何故謝る?襲っておいて、何故?
フリオニールの頭の中にはただ、疑問しか残らない。
カインが全く分からない。彼のしたいことも言葉の意味も、そして今置かれている状況も何もかもがフリオニールの理解を超えている…
それにもう、理解するために頭を使うほどの力もフリオニールには残されていなくて…

「次に望みを託させてくれ」

その言葉の意味はもう考えられなかった。
目を開けていることすらできない。少しずつ、少しずつ…意識が、闇に融ける。
消え行く意識の闇の中にふと浮かぶ、何よりも愛しいはずの眩しさ。
フリオニールの心を射抜く雷、知らない間に自分をただ照らしていた閃光―

「…ライト……」

声にならない声でただその名を呼んだ。
それだけで胸が張り裂けそうになるくらいの愛しさを秘めたその名前を…残る力を振り絞るように。
その場にライトニングはいないのに―届かないと分かっているのに、それでもフリオニールには…どうしても伝えなければならない言葉があって。

「……ごめん……」

 俺、約束守れそうにない。
 全てを思い出すことなんてもうできそうにない。
 もしかしたら…こんな俺にはもう、君の側にいる資格なんてないのかもしれない。
 でも、それでも俺は…君の事を…

―………あいしてる…………

その言葉は声になっていたのか、フリオニール自身にすらもう分からない。
ただ、胸の奥に消えることなく輝いた雷光―その姿が目の前から消えるのと同時に、フリオニールの意識は闇へと堕ちて行った―


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