睦言-3/3-






そして、空が白み始めた頃…ライトニングはフリオニールの腕の中でゆっくりと目を覚ました。
流石に身体の節々が痛いが、これについては少し時間が経てば元に戻るだろう。
顔を上げればそこにはフリオニールの寝顔。何も知らずに幸せそうに眠っているその寝顔をじっと見つめる…そして、その頬に触れた。
これが最後、と自分に言い聞かせるように。

「フリオニール」

起こさないように小さな声で、ライトニングはフリオニールに語りかける。
何も知らないまま、彼には生き残って欲しかった。自分の決断に彼を巻き込むことだけはどうしてもしたくなかった…

「愛してる。だから…だから、お前は生きるんだ…私の分まで。私に果たせなかった希望をお前に託すから…」

唇を噛み締める。
今まで秘めてきた想いが通じ合ったのにその時は別れの目の前―その状況で、ライトニングの想いはとめどなく言葉となってあふれ出てくる―

「私は…お前たちの為に、仲間たちの為に希望を繋いでみせる。例えこの身が消え去ろうとも。でも…」

眠ったままの唇に、唇をそっと重ねる。
唇を離して目を開くと視界はぼんやりと霞んでいる―涙が浮かんでいることに、そこでライトニングは初めて気がついた。
浮かんだ涙は乱暴に掌で拭い、そしてしっかりとフリオニールを見つめる。その姿を瞳に焼き付けるかのように。

「でも、お前は何があってもこの世界から元の世界へ還るんだ…そして、幸せになればいい。私の知らない誰かと…私を、忘れて…」

その先はもう、言葉にはならなかった。
拭ったはずの涙があふれ出る―誰かの前で涙を見せることなどないと思っていたのに、それでも今…ライトニングはもう溢れる涙をとめることが出来なくなっていた。
眠るフリオニールの頬にぽたりとひとしずく涙が落ちる。

―…それでも私はお前を…お前のことを、愛してるんだ…フリオニール…!!


とめどなく流れ続けていた涙が枯れ果てたのは、少しずつ空に明るさが戻り始めた頃。
ライトニングは何事もなかったかのように涙の跡を拭い、そして…自分の頬を一度ぴしゃりと叩く。
そろそろラグナ達と合流した方がいいだろう。そう思った彼女は手早く身支度を済ませ、そして眠り続けるフリオニールの身体を揺する。

「起きろ、フリオニール」
「ん…あ、ライト……おはよう」

まだどこか寝ぼけているようなフリオニールは、目の前にあったライトニングの顔に嬉しそうに相貌を崩す。
そんなフリオニールを見ているのが辛くて…また、涙が浮かびそうになって。
誤魔化すようにフリオニールに背中を向けて、ライトニングは一歩脚を進め…彼のほうを見ないまま短く伝える。

「私はそろそろ行く…お前も早くカインと合流するといい」
「なあ、ライト…君も仲間とはぐれたんだったらさ、俺と一緒に行かないか?」

フリオニールのその誘いは当然のものと言えるかもしれない。
彼の性格を考えれば、そして今…確かに自分たちの想いが通じ合っていることを考えれば、彼の性格を考えればそう言うのは当然なのかもしれない。
だが、ライトニングは首を横に振った。

「私は大丈夫だ。それに向こうはラグナが先導しているからな、私が戻ってやらないとまた道に迷うだろうし」
「…そ、か」

本当は振り向かずに行くつもりだった。振り向いてしまったら、また涙が溢れそうだったから。
それでもライトニングは…寂しそうなフリオニールのその言葉にどうしても振り返らずにはいられなくて。

「私がいないと戦えない、なんて事を言い出すつもりじゃないだろうな?私はそんな弱い男に身体を委ねたつもりはないんだが」
「そうじゃないさ。でも、やっぱり君が心配で…」
「心配には及ばない。私はそんなに弱くはないし、それに」

すまない、フリオニール。今から私はひとつ嘘をつく。
ライトニングは内心フリオニールにそう詫びて、笑顔を作ってみせる。

「ずっと一緒にいるよりは、一度離れてもう一度顔を合わせる方がきっと幸せを感じられると思うから、な」
「…それもそうか。うん…じゃあ気をつけて、ライト」

ああ、と短く返してライトニングは再びフリオニールに背中を向けた。

「…じゃあな、フリオニール」
「ああ。またな、ライト」

「またな」と言う言葉に答えは返せなかった。
…今のライトニングにはもう迷いはない。
迷いや後悔なんてものはさっき、涙と一緒に全部自分の中から追い出してきたから。
フリオニールに嘘をついてしまったことさえも、彼を生かすために必要なことだったと考えれば後悔にはなりえなくて。

―だけどこれだけは信じて欲しい。私は間違いなくお前を愛している。だから…私は行くんだ…!

ライトニングはもう振り返らなかった。
真っ直ぐに歩き続けるライトニングの視界に、見覚えのある背中が見える。

「ヴァン!ラグナ!ユウナ!」

その名を呼び、ライトニングは3人を追いかけて走る。
合流したらラグナに言ってやろう、私は何も後悔などせずに戦えると―そう、心の底で思いながら。


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