睦言-2/3-






脱ぎ捨てた服にもう一度袖を通すには身体を離さなければならず、2人はそのかすかな間すら離れるのが惜しくて…
空気に触れる身体が冷えるのを避けるためにフリオニールのマントで互いの身体を緩く包んだだけの状態で2人はただ寄り添っていた。
先ほどまで身体中を駆け回っていた炎は既に収まり、熱く激しかった時間の後に訪れるのは…どこか甘くも感じる安らぎ。
壁にもたれたままフリオニールはライトニングの肩を抱き、時折その髪を撫でるように掌を動かす―その感触が心地よくてライトニングはそれに甘えるようにフリオニールの肩に頭を預けている。

「あの、さ」

ライトニングの髪を撫でながらフリオニールが遠慮がちに声をかける。
先ほどまで過ごしていた熱い時間とは違う…とは言えそれがいつもどおりの、どこかライトニングに気を使っているようなその声音にライトニングは視線だけを上げる。

「その、俺初めてだったから…なんかこう、うん…下手でごめん」
「謝る必要はない…大体上手いも下手も判断できるわけないだろう、私だって初めてだったんだから」
「あとその、痛かったよな…ごめん」
「だから謝るなと言っているのに。確かに最初は痛かったが、その…途中からそんなに気にならなかったし」

言っておいてから妙な気恥ずかしさがライトニングを支配する。
事に及んでいる最中はそこまで考えている余裕はなかったとは言え、こうして全て終わってから考えてみると…途中からあまりにもあられもなく乱れすぎていたのではないかと妙に心配になってきた。

「まぁその…俺もライト見てて、途中からなんとなく…もしかして気持ちよくなってくれてるのかなーとは思ってた」
「あんまりはっきりと言うな、恥ずかしいから」

今自分はどんな顔をしているのか…想像すらつかないが、それでもその顔をフリオニールに見られたくなくてライトニングはその胸に顔をうずめた。
髪を撫でる手は止まることなく、甘やかな空気を余計に甘く感じさせるのはそのフリオニールの手なのかもしれないとライトニングはふと思う。

「…いや、でも嬉しかった。俺ひとりで興奮して俺ひとりで満足して、じゃあ流石に悪いし」
「さっき言っただろう、お前が満足していれば私はそれだけで充分だと思っていた…そこに加えて、私もそれなりにはその、良くしてもらったし…だから謝る必要はない」
「うん。まあほら、こういうこと言うのもナンだけど…次はもっと、頑張るから」

次、か。
フリオニールの胸に顔をうずめたまま、ライトニングは目を閉じた。
「次」なんて永遠にないことを彼は知らないからこうして無邪気にこんなことを言っている…それにどう答えたらいいのかわからなくて、ライトニングは縋りつくようにフリオニールの胸に手を添えた。

「…ライト?」
「なんでもない…気にするな」
「そうは言われても気になるよ。まだどこか痛いのか?」

今どこかが痛いとしたら…何も知らないフリオニールの優しさに触れているむき出しの心が痛い。
だが今、全ての真相を話したら…彼はきっと自分に同行したがるだろう。還れる保障も、生きていられる保障すらもない戦いに。
それだけはどうしても避けたかった。フリオニールには…どんな形になったとしても、生きてもらいたかった。

「…さっきお前は最後まで言わせてくれなかったが」

そこでようやく顔を上げた。自分を心配そうに覗き込んでいるフリオニールの瞳を見つめるのが辛い。
それでもこれは伝えておかなければならない。自分とは違い、次の戦いへ向かうフリオニールには。

「もしもお前が全てを思い出した時に私がこの世界に存在しなかったら、私のことは…あの約束のことは忘れて前に進んで欲しい。私に囚われて道を見失ったりはしないで欲しい」

一瞬の間。髪を撫でていた手は背中に回され、ライトニングはしっかりとフリオニールに抱きしめられる形になる。
フリオニールのぬくもりが、優しさが、純粋さが、今のライトニングには…ただひたすらに愛しくて、そして…痛かった。

「…だから、そんなこと言うなって。そう簡単にライトを忘れたりできるわけないだろ?」

驚きと哀しみ、そんなものが綯い交ぜになったような声音で、まるで諭すようにライトニングにそう語りかけるフリオニール。
もしも、これが最後でなかったらその言葉はどんなに幸せなものだっただろう。
彼は何も知らないから、だから…ある種残酷とも言えるその言葉を普通に投げかけてくる。
フリオニールは何も悪くないのに、その言葉はライトニングの胸に深く深く突き刺さる―

「ここは戦場だ…何が起こるかわからないだろう。それに『もしも』の話をしているだけだ、気に障ったなら謝る」
「いや、謝らなくていい…でも、俺は忘れたりしないさ。例え全てを忘れたとしても…絶対に君のことだけは思い出してみせるから」
「今私に向けてそんな殺し文句を出されてもな。今更口説かれなくても私はとっくにお前しか見えていないんだが」

半ば冗談めかしてそんなことを言ってみる…そうでもしないとうっかり今のフリオニールに絆されて全てを話してしまいそうだったから。
それに、あの自信なさげにおろおろとしていたフリオニールからは想像もつかないほど真っ直ぐなその言葉に、月並みな言葉になるが惚れ直してしまったのは事実。

「あー、ダメだ」

フリオニールは短くそう言葉にして、一旦頭に手を当ててから…ライトニングを抱きしめる腕の力を強くする。

「そんな可愛いこと言い出されたら俺…なあ、ほらその」
「…元気だな、お前は」

フリオニールの言いたいことはライトニングにも伝わってくる。寄り添っているのだからフリオニールに起こった「変化」には当然気付いているし…ライトニングの側にはそれを拒むつもりもない。
「これが最後」、その言葉を免罪符にしている自覚は自分にもある…だがしかし、目の前のフリオニールが自分を求めている、それに応えないでいるにはライトニングはフリオニールのことを愛しすぎていて…
許可を与えるようにフリオニールに口付けると、待ってましたと言わんばかりにフリオニールの腕がライトニングの身体をゆっくりと押し倒す―「最後の夜」はまだ、終わりそうにない。

…その後、同じようなやり取りをもう1回繰り返した2人が眠りについたのは半宵も軽く過ぎた頃だった。
それでもフリオニールが然程疲れた様子を見せなかったのは若さ故か戦い慣れたことによる体力の高さ故か、それともライトニングへの愛故にか。


←Prev  Next→




MENU / TEXT MENU / TOP
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -