相愛-side/L- -3/5-






「ここならまだ安全だろう」

屋根もある、壁もある。形としては建物の体裁を保っているが人の気配など全くない廃屋の中に足を進めた2人は、隙間風などの少ない部屋を選んでそこに腰を落ち着けた。

「…なあ、ライト…俺、やっぱりあっちの部屋にいたほうが」
「イミテーションはある程度の知能は持っているからな、建物に入ってこられた時にひとりずつでは危険だろう」
「それはそうなんだけど…」

一体この男は何にこだわっているというのだろう。
自分と一緒にいるのがそんなに嫌なのだろうか。それとも何か、他に理由でもあるというのか。
そんなことを考えながらもライトニングはランタンを取り出して魔法で火をともした。
そのランタンを、元々梁であったのであろう場所に吊るし…そんな自分の背中を見つめる視線に気付いてライトニングは振り返った。

「何か言いたいことがあるんならはっきり言えばいいだろう」

言いたいことがあるのは自分のほうなのに、責任転嫁もいいところだ。
そんな考えに囚われながら、ライトニングはフリオニールの隣に腰を下ろした。
フリオニールの表情には一瞬の躊躇い、そして困惑が浮かび…ライトニングからそっと視線はそらされた。
最後だと、言うのに。

そもそも、「あの時」からそうだった。
ほんの些細な事を伝えるために、言葉に出しかけては止めてしまう。
大したことでもないのにそれをどうしても伝えられない。
戦っているときは頼もしい仲間だと思えるのにどこまでも不器用で、それが時に腹立たしくて、でも…
そんなフリオニールがたまらなく愛しいと、いつしか思い始めていた。

「フリオニール」

名を呼べば振り返り、視線がぶつかる。
こんなことももう、明日からはないのだと改めて思う―胸が締め付けられるように苦しくなって、その先の言葉が続けられない。

「なんだ?」

促すようなその瞳に、押しつぶされそうに胸が痛むのを堪えながらライトニングはようやく言葉を搾り出し始める。

「もしも、あの花がいらなくなった時に―」

ぶつかり合った視線。さっきは逸らしていたのに今はしっかりとこちらを見据えるその視線…逃げることなど出来ない。
それでも今から自分が伝えようとしていることは彼に対しての手酷い「裏切り」でしかなくて、言葉はどうしても普段よりも弱くなってしまっていた。

「あの花がいらなくなった時にもう私がこの世界にいなかったら…」
「そんなこと言うなよ」

ライトニングが必死の思いで搾り出したその言葉を最後まで言わせることなくフリオニールは首を横に振る。
そしてライトニングの瞳を真っ直ぐに見据えた。
自分から逃げようとしていたようにすら見えた先ほどのフリオニールと、今目の前にいるフリオニールは本当に同一人物なのだろうか?
そんな奇妙な考えが脳裡を過ぎる。

「全てを思い出したらあの花はライトに渡すって決めてるんだ。俺に約束を破らせるつもりか?」

違う。
約束を破るのは―私だ。
その言葉を飲み込めたのは、フリオニールの眼差しがあまりにも真剣だったから。
今のフリオニールにその言葉の真意を伝えてしまえば、きっと彼は全てを知りたがる。
…フリオニールには、生きてもらいたい。
次の戦いへ希望を繋いでもらいたい。
だから、話すことは出来ない―例え、それが余計に傷つけることに繋がったとしても。

「どうしたんだライト、急に変なことを言い出して」
「さあな。自分でもどうかしているとしか思えない」

そんな自分に3度目の嘲笑を浮かべ、そしてライトニングはフリオニールの目を真っ直ぐに見つめる。
ぶつかり合う、2つの視線。
すぐにフリオニールが視線を逸らす―その視線を呼び戻す為にライトニングは言葉を繋ぐ。


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