相愛-side/L- -2/5-






今なら走ればきっと追いつける。
どうして今彼の姿を見つけてしまったのだろう。見つけなければ、この気持ちには蓋をしたまま進むことができたかもしれないのに。
でも―今、この気持ちのまま戦ったとしても結局は後悔が残ってしまう、から。
自分にもそんな人間らしさが残されていたのかと、ライトニングは小さく自分に対して嘲笑を向けながらひた走る。

見間違いでもなんでもなかった、「心残り」の背中が―たなびく長いマントが視界に入る。
誰か―カインか、それとも他の仲間と一緒にいるかと思ったがそんなこともなく、背中…フリオニールは早足で歩き続けていた。

「…フリオニール…っ…!!」

呼び止めた声に振り返る。
驚いたような表情でこちらを見て、そしていつもの様に柔らかく微笑みを向ける―
そんな全てがライトニングの心を捕らえて離さない。
きっと、これが最後。
そう思いながら、立ち止まったフリオニールに駆け寄ってライトニングはその腕を掴んだ。

「どうしたんだライト、君もひとりなのか?」
「ああ、いや…さっきまでユウナ達と一緒だったんだが」

なにも馬鹿正直に言うことはなかっただろう。一体何故離れたのかどう説明するつもりだ。
言葉を並べた後に気付いたが、フリオニールは特に意に介する風でもない。

「なんだ、そっちもはぐれたのか」
「そっち『も』…?」

問われたことに問いを返したにも関わらず、フリオニールはやはり意に介する風でもなくそれでいてどこか恥ずかしそうな笑顔を浮かべた。

「俺はさっきまでカインと一緒だったんだがちょっと目を離したすきに、な」

カインと一緒。
その言葉が意味するもの、それはつまり―本当に、これが最後だということ。
カインと一緒に行動していれば恐らく、フリオニールは近いうちに眠らされどこかにかくまわれることになるだろう…次の戦いへ希望を繋ぐ戦士として。
次の戦いの場にいられるかどうかわからない自分と顔を合わせるのはこれが最後になる。
言葉にならない想いが胸を締め付ける。
いっそ、全て吐き出してしまえればどれほど楽だろう…
しかし。
今のフリオニールに、この重荷を背負わせるわけには行かない。

「そんなわけでカインを探していたんだがもうすぐ日が暮れるし、どうしたものかなと思っていたんだ」

ライトニングの葛藤など知る由もないフリオニールはそんなことを言って首を竦める。

「…どこかで夜を明かすしかないだろうな。イミテーションに襲われるのも問題だが、夜になると獣の類も出てくるだろうし」

確かにこの状況は危険なのだ。
しかし。安全とか危険とか、そんな言葉は全て建前でしかない。
これが最後だから。
せめて一瞬でも、長い時を一緒に―

「夜を明かすったって、ひとりじゃ…」
「誰がひとりで夜を明かすと言った」

内心に渦巻くさまざまな感情を押し殺しながらライトニングはそう言い、掴んだままのフリオニールの腕を引いて歩き始めた。
何故大前提としてひとりで夜を明かすことを思いつくのか。
勿論フリオニールはこれが最後の時になることなど知らないからそこは仕方ないとしても、自分と一緒にと言う選択肢が全く思い浮かばなかったのか。
その苛立ちがフリオニールの腕を掴む力を強くさせる。

「…え?」
「え?じゃない。ひとりよりはふたりのほうが安全だろう」

詭弁と言われたとしたらそれを否定するつもりはない。
もしもフリオニールでなければ、こんなことを言っていたかどうかは自分でもわからない。気をつけろと一言かけて送り出していただろう。
だが…今目の前にいるのはフリオニールだ。愛しくて、誰よりも大切で仕方がない存在なのだ…

「いやその、それは確かにそうなんだけど…」
「わかったら行くぞ。どこか安全に野営できる場所を探すんだ」

あとひとつ願わくば、カインに見つからなければいい。
一緒にいられる時間、刻限は迫っている。カインに見つかってしまえば…恐らくフリオニールはその場でカインについていってしまうことになるだろうから。
そのためにも、簡単に姿が見える場所にいないほうがいいだろう―
もっともらしい言葉の裏に隠した「計算」に気付き、ライトニングはフリオニールに気付かれないように再び己に向けて嘲笑を浮かべた。


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