相愛-side/F- -3/5-
「どうしたんだライト、急に変なことを言い出して」
「さあな。自分でもどうかしているとしか思えない」
その言葉に続いてライトニングが笑ったように見えた。
しかしその笑顔は決して楽しそうなものではなく。
あえて言うのであればそう、何かを蔑むような―
しかしその表情はすぐに消え、ライトニングの視線が自分を捕らえた。
ぶつかり合った視線…フリオニールは耐え切れずに目を逸らした。
そのまま見つめていたら、ライトニングを…何故かいつもよりもはかなく見えてしまったライトニングを抱きしめてしまいそうだったから。
「フリオニール」
視線を逸らしたと思えばすぐにその名を呼ばれ、フリオニールは理性を振り絞ってそちらを見る。
「…どうした」
「私を…」
躊躇うように言葉が止まり―覚悟を決めたとでも言いたそうな表情でライトニングの瞳が真っ直ぐに自分を捉え、そしてその唇が再び動き始める。
「私を、抱いてくれ」
「…え?」
今、彼女は何を言った?
フリオニールの頭の中でライトニングの言葉がぐるぐるとこだまする。
聞き間違いか、いやそうに違いない。確かにそんなことを言われることを妄想したことはあったが、そんなことが現実に起こりうるはずはないのだから。
だって彼女は―自分のことを仲間以上としては見ていない。
だからこそ、こうして2人きりで一緒にいるなんて選択が―
「聞こえなかったのか?私を抱いてくれと言ったんだ」
2度も同じことを言われれば、それが聞き間違いでないことははっきりと解る。
いや、違う。ライトがそんなことを言うはずがない―
そう思いながらようやく声を絞り出す。
「きゅ、急に何を…ライト、冗談は程々に」
「これが冗談を言っている顔に見えるか」
それに答える言葉が口から出てこない。冗談を言うような顔ではないライトニングの言うことはあまりに真っ当で。
言える言葉が何も思い浮かばない。ただ、何かを言おうと口は動かすもののそれが声となって発せられることはない―
その言葉を額面どおりに受け取るとするならばつまり。
ライトニングが言いたいことは。
ゴクッ…と無意識に唾を飲み、それで我に返ってフリオニールは激しく首を横に振った。
「違う、違うだろ俺…あ、ああえーと…あ、ああそうか!」
あまりにも自分に都合の良すぎる解釈を振り払うようにわざと大きな声でそう言って、ようやく導き出した答えを確かめるようにフリオニールはライトニングの背中に腕を回した。
正直なことを言えば、こうして抱きしめるだけでもフリオニールの頭の中は暴走寸前であった。
鎧越しであるからかその身体の感触は直接確かめようがないものの、鼻腔をくすぐるどこか甘やかな匂いと腕に感じるライトニングのぬくもりだけでどうにかなってしまいそうで。
そうなればなったで傷つくくせにそれでも寧ろこのまま拒絶された方がいいのかもしれないなんてほんの少し思ってしまうほど―フリオニールの「限界」は近い。
「こ、こういうことで…いいんだよな?」
「…いいわけないだろう、この朴念仁」
その言葉と共に身体を押し返され、フリオニールは自分の行動を後悔する…間すら与えられず、ライトニングの右手が後頭部に回される。
そのまま引き寄せられ―唇が、重なる。
今、何が起こっている?
キスするときは目を閉じるのがマナーだぜ、なんて笑っていたジタンの顔がふと思い浮かんだが、それでもフリオニールは目を閉じることが出来ない。
何故こんなことが起こっているのか―それともこれは夢か。
ライトニングが解らない。今まさに触れ合っているというのにライトニングがとてつもなく遠く感じる―
自分にどうしてほしいのか。何を求めているのか。それがフリオニールにはどうしても繋がらない。
さっきの言葉を考えれば、たった一つ単純な答えは目の前に転がっている。
だが、それはありえない…だって、彼女は自分のことを仲間としか―
頭の中でめまぐるしく色んな言葉が駆け巡っていく。