邂逅-1/2-
ライトニングがこの、彼女にとっては意味の解らない世界に呼び出されて間もない頃。
彼女はぼんやりと、聖域の近くで空を見上げていた。
突然呼び出されて、しかも突然戦えと言われて―私に何をどうしろと?
ライトニングはただただ、コスモスに対しての不信、そしてどこにぶつければいいのかすら解らない苛立ちに苛まされていた。
「…君が新しい仲間か」
こうやって話しかけられるのは何度目だ。
背後から声をかけてきたのであろう声の主の方を見ることもなく、その声に応えるでもなく…ライトニングは空を眺めたまま。
それに―別に仲間だとは思っていない。
「聞こえなかったか?返事くらい…」
「聞こえているから心配するな」
今までにこうして声をかけてきた連中は一度返事をしなければ自分の名前だけを名乗り去っていく。
きっと照れてるんだろうとか、今はまだ戸惑ってるだろうから慣れたらよろしくとか、レディに無理強いは良くないよなとかそんな風に告げて。
だが、今声をかけてきたこの男はどうやらそのように思ってはくれないようだ。
「考え事をしていただけだ…それで、私に何の用だ」
振り返った先にいた男の姿は、初見となるライトニングにとってはある種奇妙とも思えるものだった。
銀色の髪をバンダナで覆い、前に会った男ほどではないとは言え軽そうな鎧を身にまとっている。
それよりも何よりも、全身あちこちに固定された数々の武器がライトニングの目を引いた。
―重くないんだろうか?
ライトニングが真っ先に思ったのがそんなことで、しかし相手は勿論そんなことを知るよしもなく。
「あ…、いや用ってほどの用じゃないんだ」
改めて聞けば、落ち着いた中に意思の強さを感じさせる声。しかし緊張しているのか時々その声はかすかに上擦る。
「新しく仲間が増えたとコスモスに聞いたから、挨拶くらいはしておこうかと思って」
「別に、そんなものなら不要だ」
馴れ合うつもりなど毛頭ない。
自分は自分に出来ることを、この世界から元の世界へ帰る事だけを考えていたい。
仲間のことなど、ライトニングには本当にどうでも良かった。
その思いをそのまま口に出し、ライトニングはすぐに視線を空に戻した。
「君にとって不要でも、俺にとっては必要なんだ―俺はフリオニール。君の名前、聞かせてほしい」
「―ライトニング」
それだけ伝えて、ライトニングは歩き始める。
もう用は終わったと言わんばかりに。
「待ってくれ」
歩き始めたライトニングの足を止める為か、その声は先ほどまでよりも強い語気をはらんでライトニングの耳に響いてくる。
「もう用は終わっただろう」
「君にとって用は終わったかもしれないが俺にはまだ用が―」
しつこい。
ライトニングはそう思いながら、今度は身体ごとフリオニールのほうを振り返る。
「私にはもう用はないと言っているだろう。それとも、力づくででも聞かせてみせるか?」
「そう言う物言いはないだろう」
先ほどは穏やかに見えた表情が引きしまる。
その表情の変化に気付いたライトニングはそこで彼に―フリオニールに興味を惹かれる。
勿論あれだけ武器を持ち歩いているのだ、その全てがハリボテでないとしたらそれは何よりも彼が「戦って来た」人間であることの証左となる。
そこでライトニングはふと彼に興味を抱いた。逆にあれだけの武器をどう使いこなすのか…
「話を聞いてやってもいい、だが―条件がある」
「条件?」
「…私と戦え」
その言葉にフリオニールの目が大きく見開かれ、その視線がライトニングの視線と真っ直ぐにぶつかり合う。
その表情の変化を意に介するでもなく、ライトニングはその眼を真っ直ぐに見据えて告げた。
「調和の神のために、共に戦うというのなら…意思と覚悟を見極めてやる」
言い放ったその言葉に、フリオニールはようやく真意を得たとばかりに勝気に微笑んでみせた。
そして、慣れた様な手つきで背中に背負った槍をまずは手に取る。
ぶつかり合ったままの視線は逸らされることなく、二人の間に緊張が走る。
「そう言うことなら受けて立つ…信頼に足るか確かめてみろ」
じりじりと間合いを計り、どちらが先に動き出すかをお互いに図り…
先に足を進めたのはフリオニールだった。
「はっ!」
太股のところに差していた短剣を抜き、それをライトニングめがけて投げる。
「遅い」
それをすばやく避けたライトニングは一気に距離を詰め、剣を構える。
「そう簡単に追い詰められると思ったか?」
フリオニールは不敵な笑みを浮かべて後ろの方向にステップし、背中の槍を手に取る。
「ふんっ!」
その槍が大きく取り回され、その動きに意表を突かれたのかライトニングの足に槍の柄が当たり、空中にいたライトニングは一瞬バランスを崩す。
そこに畳み掛けるようにフリオニールが剣を抜くが、ライトニングも慌てずに体制を建て直しその剣をフリオニールに向ける。