相愛-side/F- -2/5-






「…え?」
「え?じゃない。ひとりよりはふたりのほうが安全だろう」

当たり前のようにそう言ってのけるライトニング。
彼女は解っていないのだろうか。彼女自身は女で自分は男で…いくらそのほうが安全とは言え当たり前のように男と女が一晩2人きりで一緒にいるという選択をすることの意味を。
それとももしかして、自分は男だと思われてもいないのだろうか―そんなことまで考え、そしてその考えは少なからずフリオニールに落胆を与える。

「いやその、それは確かにそうなんだけど…」
「わかったら行くぞ。どこか安全に野営できる場所を探すんだ」

確かに彼女からしたら自分は仲間だし、自分だってさっき考えた―相手がライトニングでなければ、異性の仲間と2人で野営などなんとも思わない、と。
つまり裏を返せばライトニングにはただの仲間以上にはなんとも思われていないということで、自分を男だと言うことをライトニングは意識すらしていないということで―
腕を引かれるまま歩いていくフリオニールの表情には決して薄くはない落胆の色が浮かんでいた。


「ここならまだ安全だろう」

屋根もある、壁もある。形としては建物の体裁を保っているが人の気配など全くない廃屋の中に足を進めた2人は、隙間風などの少ない部屋を選んでそこに腰を落ち着けた。

「…なあ、ライト…俺、やっぱりあっちの部屋にいたほうが」

下手に建物としての体裁を保っているからタチが悪い。
外からは見えない場所に想い人と2人。勿論だからといって何が出来るというわけではないが、普段から―特にライトニングへの想いを自覚してからは日に日に激しくなる妄想がどこかで暴走してしまいそうである意味恐ろしい。
そんなことになってしまってはこんな風にライトニングと2人でいられることなどなくなってしまうだろう。
それならば、まだ理性を保つことが出来るように別の部屋にでもいたほうがいいのではないだろうか。

「イミテーションはある程度の知能は持っているからな、建物に入ってこられた時にひとりずつでは危険だろう」
「それはそうなんだけど…」

自分の片隅にある邪な考えなど気付いてもいないであろうライトニングにあっさりと正論で言い返され、フリオニールの側はそれ以上言葉が続かない。
ただ、ランタンを取り出して魔法で火をともすライトニングの背中をぼんやりと眺めるだけ。
別に2人きりになることなどこれが初めてではないのに、他の仲間がすぐにここを見つけ出す可能性が低いということを考えるだけで緊張が走る。
掌に汗が浮かんでいるのを、そっと服の裾で拭いながら見つめていたライトニングの背中…ふと、その顔がこちらに向けられた。

「何か言いたいことがあるんならはっきり言えばいいだろう」

見透かされたような気がして、フリオニールは答えられない。
言いたいことなら山ほどある。
好きだ、愛している。一緒にいたい。一緒の世界に還ることは叶わないけれど、それまではずっと自分の隣にいてほしい。
しかし、その言葉を口に出すことは出来ない―拒絶が返ってきたとしたらフリオニールは多分立ち直れない。
それに…折角「仲間」として一緒にいられる時間すら自分の手で葬り去ってしまうことになる。
自然と視線をライトニングから逸らす。
沈黙の重さに耐え切れなくなったところで、ライトニングが口を開いた。

「フリオニール」

その名を呼ばれるだけで胸が締め付けられるように愛しくて、そして切ない。
きっと、彼女は知らない。
自分がいつの間にかこんなにも想われているのだと言う事を。
だからこんなに無防備に2人きりになれたんだろう―
そんな堂々巡りの考えを振り払うように、視線をライトニングのほうに移した。

「なんだ?」
「もしも、あの花がいらなくなった時に―」

真っ直ぐに見つめあう。今までに見たことがないような、どこか悲しそうなライトニングの表情から目が離せない―
君に何があった?
今すぐにでもライトニングの言葉を遮ってそう問いかけたかったが、そうする前にライトニングの言葉が続く。

「あの花がいらなくなった時にもう私がこの世界にいなかったら…」
「そんなこと言うなよ」

あまりに意外な言葉が飛び出して、フリオニールはただ否定するように首を横に振った。
そんなことがあってはならない―ライトニングが消えてしまうなんてことがあっては。

「全てを思い出したらあの花はライトに渡すって決めてるんだ。俺に約束を破らせるつもりか?」

その言葉を聞いたライトニングの表情は、きっと彼女自身は気付いていないだろうが―今までに見たことがないような哀しみに彩られている。
やはり、何かあったのだろうか。
自分にはまったく分からない何かがライトニングを蝕んでいるような気がして、フリオニールは不意に不安になる。
そして思う、自分に何か出来ないかと。


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