予感-2/3-






「フリオニール。今少しだけいいか」

ヴァンやラグナから共に行こうと誘われていたライトニングは、出発の前に…ひとりで聖域を出ようとしていたフリオニールを呼び止めた。

「ん?ああ、ライトか。一体どうしたんだ」

振り返ったフリオニールはいつもどおりの素直な笑顔で、ライトニングはその笑顔にほんの少しだけ救われた気がする。
きっと彼は自分のように、戦いの意味を見失うことなどないのだろう。
ほんの少しその素直さが羨ましくもあり…そして、今のライトニングにはそのフリオニールがとても眩しくも見えた。

「…私はこの戦いに勝つつもりでいる。そうすれば、きっと失った記憶を取り戻して元の世界へ還ることが出来る。お前も、私も」
「ああ…そうだな、きっとそうだって俺も信じてる」

一瞬の間。フリオニールが何か言いたそうに見えたのはライトニングの気のせいだろうか。
しかし、見えただけで何も言わない…きっと気のせいだった、と自分に言い聞かせ、ライトニングは言葉を更に繋ぐ。

「だが…お前はこの戦いの意味を考えたことがあるか?」
「意味?」

フリオニールは首をかしげる。彼はどうやら、自分のようにこの戦いの果てに本当に自分が目指すもの…失った記憶や、元の世界へ還る手段があることを疑ってもいない…らしい。
ここまで純粋でいられたならば、自分は…迷うことはなかったのだろうか。ふと、そんな考えが脳裡を過ぎる。
過ぎった考えはすぐに振り払い、ライトニングは言葉を続けた。

「私は時々それが不安になることがある。この戦いを続ける中で、本当に私は自分の望むものを取り戻すことが出来るのだろうかと」
「…不安でも、今は進まないと仕方ないだろう。俺も、そして君も」

ぽん、とライトニングの肩にフリオニールの手が置かれる。
こういうときに感じる、仲間の存在が―そして、フリオニールへの想いが自分の戦う糧となっていることに。

「俺もどうにか元の世界の記憶を取り戻してみせるさ。そして…君との約束を守らなくちゃいけない」

フリオニールがそう言って取り出したのは、『約束』そのものである…フリオニールが大切にしているあの花。

「この戦いを終わらせて、全てを思い出して…君との約束を守る。きちんとこの花を君に譲って、それから元の世界に還るつもりだから、そこは心配しないでいい」
「…律儀だな、お前は。そこがお前のいいところだとは思っているが」
「そんな風に言われたらなんだか照れるな」

その言葉どおり、かすかにフリオニールの頬に紅みが差し…自然とライトニングの表情には笑顔が浮かぶ。
そして先ほど振り払った考えが再びライトニングの脳裡に浮かぶ…もう一度振り払おうにも、確実にその考えはライトニングの心に影を落とし、そして…言葉としてその口から放たれる。

「私もお前くらい素直でいられたら良かったのかもしれない」
「…え?」
「いや…なんでもない」

小さく首を振ってみせ、ライトニングはフリオニールの目を真っ直ぐに見据える。
自分の目を同じように真っ直ぐに見返すフリオニールの瞳の、その奥に見え隠れする純粋さ…それが今のライトニングにとっては何よりの、戦う理由。
たとえその先に自分の望むものがなかったとしても、この戦いが終われば…調和の神の戦士でいる必要がなくなれば、その時は。

「…フリオニール」
「ん?」
「約束…必ず守ってくれるな?」
「勿論だろ」

任せろと言わんばかりに胸を叩いてみせたフリオニールを見る今のライトニングの表情はきっと、自分では見えないが…またラグナあたりに見られたら「やっぱり女の子だな」なんていわれてしまうのだろう。
自分でもそう思ってしまうほど、今ライトニングはフリオニールがとても頼もしく見えていた。


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