決心-1/3-






「おー、フリオニールとちゃんと仲直りしたのか。感心感心」

聖域に戻ってきたライトニングを出迎えたのはラグナ。
いつものことだが、この男の何も考えていないようでその実状況を冷静に判断しているところには頭が下がる。

「仲直りも何も、別に私はフリオニールを喧嘩をしていたつもりはないが」
「ま、そんじゃそう言うことにしておいてやるがね」

口ではそう言いながら、ラグナの視線はライトニングから離れてスコールと何やら話し合っているフリオニールの方に注がれている。
釣られてライトニングもフリオニールに視線を送った…あれが本当にさっきまでぐだぐだと思い悩んでいた男だろうかと言うほど晴れやかな表情で、つまりそれだけ悩ませた原因となった自分の言葉が彼にとってどれほど重かったのかと思い知らされることになった。
そう考えると、あんな単純な詫びの言葉だけで済ませてよかったのだろうかと不意に気にかかり始める。

「おー、これはもしかして…ライトニングさんも実は女の子でした、ってヤツか?」
「何の話だ」

ラグナの言いたいこと、意図していることが分からないわけではない。ライトニング本人だってそんなことはとっくに自覚している。
しかし、自分はこの想いを隠し通すと決めた―ライトニングは必要以上に冷静を装ってラグナの言葉に短く返した―それを聞いたラグナがにやりと笑う。

「とぼけてるのか、自覚してないのか…それともほんとにそうじゃないのか、それは今オレが深く突っ込むことじゃないとは思うけど」

ラグナは相変わらず意味ありげな含み笑いを表情に貼り付けたままライトニングの肩を叩く。
それから急に真面目な顔になり、ライトニングの瞳を真剣に見据えた。
その表情の移り変わりに、一瞬ライトニングは本当に目の前にいるのがラグナなのかと疑いの念を持ったほどで―

「なんとなく、お前さんは…取り返しがつかなくなってから何も出来なかったことを後悔しそうなタイプに思えるんだよ」
「…それが、どうした」
「もしもオレの想像が外れてるならちょっとつまらないけどそれはそれでよし、自覚してないだけならさっさと自覚する。とぼけてるだけだとしたら…オレから言えるのはたった一つ。後悔はすんなよ?」

じゃーそう言うことで、なんて言いながらラグナは右手を挙げ、その場を立ち去っていった。
…ラグナが挙げた選択肢で、当たっているのは…「とぼけてるだけ」。
後悔するなと言われたところで…自分は別に、フリオニールの為にこの世界に呼ばれたわけではない。
調和の神に仕え戦うために呼ばれたこの世界で、己の思うがままに進んだところでどうなるというのだろうか。
ライトニング自身は、コスモスに対して絶対の忠誠を誓っているというわけではない。だが、この戦いに勝利すればきっと元の世界に還ることができる―そう信じて戦っているだけだ。
本当は愛だの恋だの、そんな生ぬるい感情は戦いの中では不要―の、はずだった。

「…一体どこで間違えたんだろうな、私は」

自嘲を込めたライトニングのその呟きは静かに、聖域の空へ消える―
そして一歩脚を進めたライトニング。足元で、浅く満たされた水がぱしゃりぱしゃりと音を立てる。
それに呼応するように呼び覚まされる、さっき聞いた波の音、そしてフリオニールの声。
初めて話しかけられたときに受けた印象通り、落ち着いた中に意思の強さがあって、それでいて…純粋さを内包した優しいその声が耳の奥で響いた。

―正直に言えば俺は…君に失望されたのかと思っていた。

ああ、駄目だ。ライトニングはその言葉を声にしないように堪えるのが精一杯だった。
フリオニールの声を思い出しただけで胸が締め付けられそうに…苦しい。
真っ直ぐな瞳も、はにかんで自分から目を逸らす姿も、そして自分に語りかける声すらも―フリオニールの全てが自分の心を掴んで離さない。


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