落胆-3/3-






「あの時確かに私は厳しいことを言った。だがそれでお前にそんな顔をさせるつもりはなかった…すまない」

自分の方を振り返り、困ったように眉を下げるライトニング、その表情こそ今までに見たことがないもので…それでは果たしてライトニングにそんな顔をさせた自分は一体どんな顔をしていたと言うのだろうか。
自分のそんな考えを知っているのかいないのか、ライトニングの表情さには冷静さが戻ってくる。
ライトニングが一旦口を閉ざしたことでふたりの耳に届くのは波の音―そして、その波の音をかき消すかのように、ライトニングは力強く言葉を繋いでゆく。

「お前を馬鹿にするつもりがあったわけでもないし、傷つけたかったわけでもない…ただ、あんなに傷ついた仲間を見るのは嫌なんだ、だからつい厳しい言い方になってしまった」

その言葉にはっきりと示されたライトニングの優しさが、魔法の代わりにフリオニールの心に刺さった棘で出来た傷を癒してゆく。
「仲間」とはっきり宣言されてしまったが、それでもライトニングが自分のことを案じているのだとわかっただけで…先ほどまでの昏い心が急に晴れて行くのを感じる―

「フリオニールが弱いわけじゃない。お前が弱くなんてないことは一度戦ったから私はよく知っている。ただ、奴は恐らくお前よりも強い…ただそれだけなんだ」

今目の前で自分に対して言葉を投げかけ続けるライトニングの中にはどこか躊躇いにも似た感情を感じる。
ともすればより深く傷つけてしまいかねないこの状況で、懸命に言葉を選んでいるような、そんな…不器用な優しさ。
言葉の切れ間に波の音が重なる―ライトニングの声と波の音に、フリオニールは自然と心が安らいで行くのを感じていた。

「…ありがとう、ライト。俺が考えすぎてたみたいだ」

心に圧し掛かった錘からようやく解き放たれたフリオニール―その言葉は自分でも驚くほど清々しい気分を持って、静かな海辺に響く。

「いや、礼を言われることはない。元はといえば私が」
「正直に言えば俺は…君に失望されたのかと思っていた」

ライトニングの言葉を最後まで言わせることなく、フリオニールは今の正直な気持ちを口にする。
それに呼応するように自分に視線を向けたライトニングの表情に浮かぶのはかすかな驚愕。

「失望なんて…するわけがないだろう」
「でも、情けないところ見せちゃったからな。折角認めてもらえたのにそれをふいにしてしまったのかと思って、それで…」

フリオニールの言葉はそこで途切れた。
それ以上、言葉が続かなかったのだ。自分に向かって、いつものあの柔らかな微笑を浮かべているライトニングを目にしてしまったから。

「お前は信頼に足ると私は既に認めている…今更失望なんてしない。だが」

くるりと身体ごとフリオニールの方を向いたライトニングはつかつかとその目の前まで歩み寄ってくる…そして、じっとフリオニールを見上げた。
その視線に、フリオニールの心臓が早鐘を打つ…思えばこんなに間近でライトニングの顔を見たことがあっただろうか?

「あまり無理はするな。もう一度言うが、仲間の傷つくところは見たくない」
「あ…ああ」

ともすれば心臓が口から飛び出してしまうのではないかと思えるほどに激しく刻まれる鼓動に、フリオニールはそれだけ返すのがやっとで。
それでもその短い答えで満足したのか、ライトニングは一つ頷いてみせた。

「お前に私より先に倒れられては困るんだ。あの約束を守ってもらえなくなるからな」

そのままライトニングは聖域の方へ足を向ける。どうやら、話は終わりらしい。
フリオニールもそれに従うようにそちらに足を向け…そこで、頭の中に甦るのはヴァンの言葉。

「…ライト、あのさ」
「どうした」
「さっき、言いそびれたんだけどさ。…ありがとう、俺を助けてくれて」
「…気にするな。仲間、だろう?」

時折しか聞くことができないライトニングのその優しい声色がフリオニールの中に心地よく響く。
願わくばその声をもっと聞いていたい…それに気付いたところで、フリオニールは大きく一つ息を吐いた。

ライトニングは言っていた。自分のことを、一度信頼に足ると認めているから失望なんてしない、と。
一度認めたことを覆すことはほぼありえない…それは自分も同じ。
自分がライトニングに恋焦がれていることを認めてしまった、から…きっとこの想いは、簡単に覆すことは出来ないのだろうな、と。



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