迷宮の向こう側-1/3-






フリオニールは時折思うことがある。
ライトニングは一体自分のどこがいいんだろう、と。
少し安全そうな場所を見つけたためそこで休息を取る、と言ったウォーリアオブライトの声はフリオニールの耳を右から左へとすり抜ける。

正直に言って自分はそんな器用な方ではない。女心の機微など全く解らない。
なんせ過去にはライトニングに「この朴念仁」とはっきり言われたこともある。
一緒にいる時間が長くなるにつれ、ライトニングに限った話をすれば多少は求めることが解るようにはなってきたもののそれでもまだ一般論的な意味での女心などさっぱり解らない。
仲間としてはできる限りのことをしている、それなりに信頼を置かれているという自負もある。
だが、「恋人」としての自分は…?

クラウドやティーダのように、元いた世界で惹かれあったわけではない。二人がいた世界はどこまでも遠い。
オニオンナイトのように、守ると宣言できるわけではない。ライトニングは自分が守るまでもなく強い。

―じゃ、俺には何が出来る?

自問自答の中でライトニングの顔が浮かんでは消える。
「あの」ライトニングが自分に対してだけ見せる表情、しぐさ、言葉。そして自分だけに許した「行為」を思えば…自分が彼女に愛されていると言う自覚ははっきりとある。
自分に対してそれだけの愛情を注いでくれるライトニングのことを大切にしなければいけない、それはわかる。
だが、大切にするに当たって自分は何が出来るのだろう。

「フリオニール?ぼーっとしてるけどどうかした?」

よほどぼんやりとした顔をしていたのだろうか、心配そうにセシルが歩み寄ってくる。

「ああ、セシルか…いや、ちょっと…考え事を、な」
「…ライトのこと?」

ズバリと言い当てられてフリオニールは言葉が続かない。何故解った、と聞きたいのにそれすら言葉にならない。
そのまま口をぱくぱくとさせているフリオニールを見てセシルは小さく笑った。

「なんて、ね。フリオニール、気付いてなかった?さっきからずっとブツブツ言ってたけど時々『ライト』って聞こえてきてたから」

笑顔でそう指摘するセシルにフリオニールはいっそう恥ずかしくなり頬を掻いた。
悩み事が独り言になって口から出るのも相当だが内容が内容なだけに余計に恥ずかしい。

「ああ…ライトには俺よりももっと相応しい誰かがいるんじゃないかって時々思うことがあるんだ」

出会ってからの時間が短いこと。
自分に何が出来るかわからないこと。
ただはっきり解るのは、自分がただひたすらにライトニングを愛していると言うこと―でも、それだけではきっとどうしようもないこともあるであろうことも―
自分には何かが足りていない気がして、それがフリオニールの心に細かな擦り傷を作る。
…そのフリオニールの言葉を聞いて、セシルは一つ頷いた。そしてその肩を軽く叩く。

「…じゃあ、僕から言える事は一つ、かな」
「言える事?」
「もしも同じことをライトが言ったら君はどう思う?…ライトのこと、もっと信じてあげなよ」

穏やかな笑顔を浮かべたままそう言って、セシルは軽く手を振ってその場を後にする。
フリオニールはそのセシルの言葉を反芻するように目を閉じた。

―同じことをライトが言ったら君はどう思う?

お前には自分以上に相応しい誰かがいるかもしれない、そんなことをライトニングが口にしたとしたら―
思考をめぐらせる間もなく、フリオニールの口から出てきた言葉はたったの5文字。

「ありえない」

今の自分にはライトニングが絶対に必要で、だからこそ…自分とライトニングでは釣り合っていないのではないかと思ってしまうのに。
しかしライトニングが同じことを言ったとしたら…きっと自分は少なからず傷つくだろう。今の自分が抱えた心の擦り傷とはまた違う傷を抱えてしまうのだろう。
では今自分がこんなことを考えていることはライトニングを傷つけてしまっていると言うことに繋がるのだろうか?
考えれば考えるほど、思考の迷宮は奥深くなってゆく。
…今のフリオニールに仲間たちが声をかけてこないのは、恐らく思い悩んでいるのを見抜いた上でそっとしておいた方がいいと思っているからだろう。
その仲間の優しさが、フリオニールの心の擦り傷に沁みる。
今はひとりで思い悩んでいたい。先ほどのセシルの言葉はありがたかったが、だがこれ以上の言葉を受け止めてしまうと思考の迷宮は更に深まってしまう気がしたから。

そんなフリオニールだから、見えているわけもなかった。
いつもなら決して見落とすはずのない―思い悩んでいる自分を遠くから射抜く光のことは。


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