刻まれたのは罪でなく-3/3-






「心当たりあるって顔してんな」
「…俺は…誰よりも愛していて、しかも俺を愛してくれていた人のことを忘れてしまっていたことがある」

ぽつりと呟いた言葉はとてもかすかで、すぐ隣にいるプリッシュにも聞こえたかどうかと自分では思えるほどで―
視線をそちらに送れば、話の続きを待つように自分を見上げるプリッシュの顔がそこにはあったので聞こえていたのだろうと判断してフリオニールは話を続ける。

「それが時々とても申し訳なく思えることがあるんだ…彼女に酷いことをしてしまったんじゃないかって」
「じゃ、忘れられる側の立場から言わせてもらうけどな」

プリッシュはぴしりと人差し指を立て、フリオニールの方を指差す。

「この世界での記憶なんてのは曖昧なもんなんだから、そんなもんに対して罪悪感持たれたらこっちもやってらんねえよ」
「そうは言われても…」
「…この世界にいる限りな、忘れちまうことは罪じゃねえんだ―忘れられる方だって、それは覚悟してる」

プリッシュは一瞬だけ目を伏せ、そしてその視線に再びウォーリアオブライトの姿を捉える。
その瞳はどこか悲しそうにも見えて…それがなんだかいつものプリッシュらしくなくて、フリオニールは奇妙な感覚を覚える。

「忘れちまうのは仕方ねえ。でも…例えあいつが何回俺のことを忘れたとしても俺は何回でもあいつの記憶に俺を刻み込んでやる」
「プリッシュ」
「だからお前もそれでいいんだ。今はきちんと、そいつのこと覚えてんだろ?なら問題ない。過去がどうでも、お前とそいつが生きてるのは今なんだからさ」

にぃっ、と悪戯っぽく笑ったプリッシュは再びフリオニールの背中を叩く。
ふと視線を送るとラグナはプリッシュほどではないものの相応に傷つきながらもイミテーションを撃破している。
その次に控えている相手を見るに…ここは、自分が出た方がいいだろう。フリオニールはそんなことを考えながら一歩脚を進める。
そして、プリッシュの方を見ないで短く呟いた。

「…ありがとう」
「何がだ?」
「この世界にいる間は俺は過去に囚われずに生きていく…ライトと一緒に。そう決意させてくれたから」

その言葉に対して小さく笑い声が聞こえたような、そんな気がした。
だが、フリオニールは振り返らずに脚を進める。

「気をつけるんだぞ。あまり無理はしないように」
「ああ、分かってる」

ウォーリアオブライトの言葉にも振り返らず、フリオニールは間合いを計りながらまずは剣を抜いた―
余計なことを考えていてはいけない、今は戦いに集中しなければ。
そしてこのひずみから戻ったらライトニングに告げればいい。この世界ではずっと、ライトニングと一緒にいると―そのためにも、負けられない…から。

「…フリオニールは気付かなかったな」

戦うフリオニールの背中を見ながらクラウドがぽつりと呟く。
言われたプリッシュの方は腕を組んだまま首をひねってみせる。

「何がだ?」
「何回忘れても何回でも記憶に刻み込むって言葉の真意…だ」
「ま、気付かれたって俺は構わねえけど」

プリッシュは勝気な笑みを浮かべながらその場に胡坐をかいて座り、クラウドを見上げる。

「と言うかあの胸でっかい姉ちゃん、鋭いなー。あの時は今ほどはっきり言わなかったのに見抜かれちまった」
「女同士だからじゃないのか」
「かも知れねえな。ま、事実は事実だからどっかでバレんのも仕方ねえってことだ」

おかしそうに笑いながらウォーリアオブライトを見つめるプリッシュの瞳に、懐かしさ以外の「想い」が秘められていることを知っているものは…数少ない。


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