これ以上、何も-3/3-






「…心は止めて身体で動く…!」

倒れたフリオニールが気にならないといえば嘘になる。
だが、いくら相手が傷ついているとは言えその動揺を引きずったまま倒せる相手ではない、それが分からないほど愚かではない―ライトニングは一度目を閉じ、すらりと剣を抜いた。
余計なことを考えてはいけない。今は目の前の敵を倒すことに集中するだけ。
ライトニングに向かって放たれる魔法は強力で、少しでも気を抜けばすぐに力を奪われてしまう―軽やかに身を翻しながら、時にその魔法に身を灼かれながらもその分銃弾や魔法を放ち、時に剣を構え突撃し時に真空の刃を放って応戦する。
フリオニールが、己も傷つきながらも倒そうとし、それが叶わず己が倒れても相応に傷つけた―その戦いを無駄にするわけには行かない。

「捉えてみせろ…!」

元の世界でそうしていた、うっすらとした記憶の通りに重力を操り剣で斬り銃弾を放ち、時には蹴りを交えながらイミテーションを攻撃してみせる。
そうして大きく振り上げた剣の一撃。

「消えうせろ!」

大きく跳ね上がったイミテーションを再び剣で斬りつけ、大きく吹き飛ばす。
今なら…倒せるかもしれない。この好機を逃すわけには行かない…!!

「切り裂く!」

両手に剣を構え、イミテーションがかわそうと身を翻したのとワンテンポタイミングを遅らせてその剣を大きく振った。

「沈めっ!!」

確かな手応えはイミテーションの身体を切り裂き、人の姿をとりながらも人ならざるイミテーションはその攻撃に耐え切れず―結晶化した身体がボロボロと崩れ落ちる。
ライトニングはそれを横目で見遣り―そこで我に返ったのか、仲間達の方に向かって駆け出していた。

「フリオニール!」

横たわったままのフリオニールの手をしっかりと握る。先ほどまでそうしていたように。
先ほど苦悶に歪んでいたその表情は穏やかなものになり、閉じられた瞼を見ても今の彼は穏やかに眠っているだけのように見えた。

「先ほどポーションを使った。もう暫くしたら目を覚ますだろう。それよりライトニング、君もこれを」

ウォーリアオブライトのその言葉に安堵の息を漏らす―が、差し出されたポーションを受け取る事はない。
今は自分の傷なんかよりも、フリオニールが目を覚ますまで見守っていたかったから。
それをクラウドは無表情のまま、ジタンはもの言いたげな笑みを浮かべながら見守っている―

「ライトニングは随分仲間想いなのだな。自分の傷よりもフリオニールが心配とは」
「仲間想いと言うか…」
「…あんたさあ、本気で気付いてないのな」

しみじみとしたウォーリアオブライトの呟きも呆れたようなクラウドの言葉も苦笑い交じりのジタンの声も、今のライトニングの耳には届かない。
ただ、今のライトニングは…目を覚ましたフリオニールの近くにいたいとしか思っていなくて。
ライトニングの耳の奥に甦るのは、先ほどのフリオニールの呟き。

―何かを失うのは…嫌だ…

ポーションの力で幾分薄くなったとは言えうっすらと火傷の跡の残るその腕にそっと触れながら、ライトニングはただ…目を閉じたフリオニールをじっと見つめていた。
願わくば、目を覚ました彼が一番初めに見つけるのは自分でありたいと思いながら。
そして目を覚ましたら、今度は彼にはっきりと言ってやろうと思いながら。

「お前に何かを失わせたりはしない。お前を取り巻く全てを…私が守ってみせる―」


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