これ以上、何も-1/3-






旅をしている最中、その途上でイミテーションに襲われることもよくある話で―
イミテーションはそれぞれ縄張りを持っているようで、それに近づかなければ襲われることはまずない。
しかし、目的の場所に向かう為にどうしてもイミテーションの縄張りを通過しなくてはならないことがあるのもまた事実で、イミテーションに襲われたときにその攻撃をかわしきることが出来ればともかくそれが出来ずに戦いを避けることが出来なくなることもよくある話、で。
そして、その日もまた。

「ぐっ…」
「フリオニール!」

イミテーションが放った魔法に巻き込まれたフリオニールは否応なくそのイミテーションとの戦いに駆り出されることになる―フリオニールが巻き込まれたことに気付いたクラウドの声は彼らしくもなく焦りの色が見えた。
遠巻きに眺めていただけでも今の自分たちの実力を軽く凌いでいることが判別できるそのイミテーション、できれば戦いたくはなかったのだが…この先にあるモーグリショップを訪ねるためにはどうしてもこのイミテーションの縄張りを通過しなくてはならなかったのもまた事実で。
後を託すことは出来ても誰かに手助けしてもらうことは出来ない状況…そしてまた良くないことに、戦わなければならない場所はフリオニールがあまり得意ではない、足場の少ない場所だった。
それでも戦うことになった以上後には引けない…イミテーションと対峙するフリオニールの表情にはそんな決意が滲み出している。
…しかしながら…

「まずいな」
「…やっぱクラウドにも分かるか。これ…かなりまずいぜ」
「何がだ」

巻き込まれた形になるとは言え、イミテーションと対峙するフリオニールの背中を見ながらぽつりと呟いたクラウドの言葉。そしてジタンがすぐにそれに答える。
それに呼応するように、ジタンの一歩前あたりにいたライトニングはフリオニールの背中を見つめながら問いかける。
ジタンとクラウドは一瞬顔を見合わせ、それから言葉を選ぶようにクラウドが一言。

「フリオニールは足場のない場所だと魔法主体の戦い方になるが普段魔法を使い慣れていないせいか隙が大きくなる。それがまずひとつ」
「ついでに言うとあのイミテーション…元になってるのはクジャだろ」

クラウドの言葉を引き継ぐようにジタンはそう言って腕を組む。その表情は彼らしくもなく―いつもより、険しい。
それがどうした、とライトニングが言うよりも前にジタンの言葉は続く。

「…クジャは魔法使い分けてそう言うとこ付け込むの得意だから多分これ…フリオニールのほうが不利だ」

能天気なようでいて、考えるべき時は考えている―勿論、元の世界からの因縁を持っているが故にクジャの戦い方をジタンが熟知していると言うこともあるのだろうけれど―
2人の言うことは尤も。それはライトニングにも分かるのか、反論もせずに唇を噛んだ。
子供の我が侭のように、フリオニールはそんなに弱くない、負けるはずがないと言い返すのは簡単だ。だが―ジタンの言葉の妥当性はライトニングにも分かる。
実際、地上にいるときは武器を使い分けさまざまな戦法を組み立てるのが得意であるにも拘らず空中では体勢を整えられないのか武器を使うことはあまりない。
そしてはっきりと言ってしまえば、フリオニールはあまり魔法が得意ではない…ライトニングから見ればもどかしいと時々思えるほどに。
そこへ持ってきて、ジタンの分析が的を射ていることも分かる。総合的に考えて、不利なのはフリオニールだという事実はライトニングにも納得のできることで。

「フリオニールなら大丈夫だ…とは言っていられなさそうだな」

戦いが始まってすぐに短剣をイミテーションに向けて投げたはいいもののこともなくかわされ早々に魔法を浴びたフリオニールを見ながらライトニングは唇を噛む。
いつの間にかすぐ隣にやってきて自分を見上げているジタンの視線には全く気付かないかのように。

「そんな顔すんなよライト、美人が台無しだぜ?」
「…くだらないことを言う暇がある状況だと思っているのか」

言ってしまった後で、今の言葉は流石に冷たすぎたかもしれないとライトニングの中に小さな反省が生まれる。これではまるで八つ当たりではないか、とも。
ジタンがこんなことを言ったのはきっと、フリオニールを見ている自分の表情に不安やもどかしさが出ているから―それを和らげようとしてのことだと分かっているのにこんな言い返し方はなかったのではないかと…
それでも目の前で戦っているフリオニールに何かしたいのに何も出来ない、そのもどかしさのせいでつい言うことが厳しくなってしまった…そんな、気がする。
それに実際、フリオニールは…戦いを上手く組み立てられず、一方的なペースでイミテーションに傷を負わされていく。
フリオニールも少しずつ、少しずつ攻撃を加えてイミテーションに傷を与えていくもののこのペースでいけば…フリオニールが勝利を収めることは難しいだろう。
もういい、と。フリオニールに一度引けと言いたくて…でも、遠くから見える真剣な眼差しにそれを本当に口にするのは躊躇われて。

「せめてあいつの魔法に巻き込まれたのがオレだったらもうちょっとどうにかできたかも知れねえのに」
「それが分かっててジタンを狙わなかったのかもしれない」

ジタンとクラウドの会話に返事を返せるほど、今のライトニングには余裕がない。
その会話は聞こえなかった振りをして…ライトニングはただ、傷つきながらも戦い続けるフリオニールを見つめている。
何故今自分は助太刀することが出来ないのだろう―そんなもどかしい気持ちを抱えたままで。


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