白景-1/2-






今日の野営地はエルフ雪原に程近い森の中。
日が傾きかけた頃、ライトニングはテントの設営を終えたフリオニールに静かに声をかけた。

「フリオニール。今から少し時間取れるか」
「ああ。どうかしたのか?」
「…雪が見たい」

何故そんなことを急に思ったのかは解らない。
「雪」に対して何か思うことがあったのかもしれない―一度元の世界に帰った仲間たちと比べて、自分の記憶は未だ曖昧なままだから、そうだと言われれば納得してしまうだろうし違うと否定されればそれはそれで受け容れてしまうだろう。
しかし、それは結局確実な理由とはならず。
ただただ何故か、不意に雪が見たくなった。たったそれだけ。
それもひとりではなく、フリオニールと2人で。

「ああ、じゃあ行こうか。今日の食事当番はオニオンナイトだから、出来上がるまでに時間がかかるだろうし」

フリオニールの表情が嬉しそうに見えるのは、ライトニングからの誘いを心底喜んでいるからだと解る。
戦っているときは熱血が過ぎるのではないかと思われるほどだが、そうでないときは時折子供のような…いや、寧ろ仔犬のようにすら見えることがあった―フリオニール本人には絶対に言わないが、一度ティーダが「フリオニールって犬っぽいっスよね」と呟いていたのを聞いたのであながち間違った解釈でもなさそうである。

「すまない、雪を見に行ってくる」

ライトニングは考え付いた「余計なこと」を一旦思考の外において、ウォーリアオブライトにそう声をかけた。

「食事までには戻るんだぞ、今日の食事当番はオニオンナイトだから出来上がるまでには時間がかかるだろうが」

先刻フリオニールが言っていたのと全く同じことをウォーリアオブライトが言ったものだから、オニオンナイトは一体どう思われているのだろうかとふと気になりつつも…ライトニングはその言葉に頷いて、エルフ雪原の方へ向けて歩き始めた。
一緒に出る必要はないだろう、と言うよりも一緒に出ると色々と後が面倒である。
自分もそしてフリオニールも、自分たちが恋人同士であるという事をはっきりと明言したことはない。
しかしながら、何故か皆知っているのである。そして、色々聞きたがったりからかったりしてくる―ライトニングはそれを常々面倒に思っていたのであった。
別に誰がどういう関係だろうと他人には関係ないだろうに、などと思いながらライトニングは野営地を後にした。

丁度森を抜け、草原に出たあたりでフリオニールはそのライトニングを追って走ってくる。

「遅くなってすまない。ちょっとジタンに捕まってた」
「…またからかわれでもしたのか?」
「あぁ、まぁその…雪を見に行くと言ったら『ライトとデートか?』って」

照れたように目を逸らしながら頬をかくフリオニール…この態度では公言しなくても皆に知れ渡っているのは仕方ないのかもしれない。
しかし、ライトニングはそれを咎める気にもならなかった。
そう言う、不器用なところもフリオニールにとっては大事な側面だということを彼女は知っていたから。

2人分の足跡が、溶けた雪でぬかるんだ地面に点々と続いてゆく…
交わす言葉は他愛のないものばかり、どこぞのひずみで何故か皇帝が手伝いに来て辟易したとか、そう言えば最近混沌の神に与していたもの達と顔をあわせることがあるなとか。
だがそんな些細な、何気ない会話であってもフリオニールは幸せそうな笑顔を浮かべているし、ライトニングもそんなフリオニールを見ていると自然と笑顔が浮かぶ。
何の因果かまたこの世界に送り込まれた運命を呪う事がないとは言わないが、それでもこの笑顔が側にいることが自分の救いになっている―ライトニングはフリオニールを見つめてそんなことを思うのであった。

ぬかるんでいた地面がうっすらと雪化粧を纏い、やがて足跡は泥ではなく雪の上に残り始める。
頭上からも白いものがちらほらと舞い始め…もうそろそろ、エルフ雪原が見えてきた。

「…寒くないか、ライト」
「寒いに決まっているだろう、雪が降っているんだから」

真面目な顔で言い切るものだからフリオニールは小さく吹き出し、それからすぐにライトニングとの距離を詰める。
しかし、近づくだけでそれ以上何をしようともしない…ライトニングがフリオニールを見上げると、どうしたものかと逡巡する表情のまま腕を上げたり下げたり動かしたりしている。
その意図がなんとなくつかめたライトニングは、フリオニールの手首を掴むとぐっと引っ張って自分の肩に回させた。

「あ…えーと」
「前から思っていたんだが今更この程度で私の顔色を伺う必要があるのか?」
「いや、それはそれこれはこれって言うか…まあ…ライトがいいんなら」
「…今までに何度お前に抱かれていると思っているんだ。今更この程度のことを嫌がるわけがないだろう」

ライトニングの言葉に照れくさそうに視線を逸らしながら、フリオニールはライトニングの肩を引き寄せた。
そのまま、その身体を包むように後ろからぎゅっと抱き寄せる。
二人とも袖のない服を纏っている―そうすることによってむき出しの素肌が触れて、そこにほのかなぬくもりが生まれた。

「こうしてればライトは寒くない、よな」
「お前もな」

表情を見ることは出来ないが、声色だけで笑顔だとわかる―互いにそんなことを思いながら、お互いのぬくもりを感じあいながら二人はただ、何も言葉を発することなく降り積もる雪を見上げていた。


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