強く繋ぐ糸-1/4-






ラビリンス―先の見えない迷宮。
既に揃えてある武器や防具を持ち込むことはできず、また仲間たちとも離れて行動しなくてはならない無限の迷宮。
出口はところどころにある。しかし、その出口よりももっと奥がある…極限がどこなのか、それは誰も知らない。
ただただ長く続くだけでなく、見知った顔のものによく似た「誰か」―イミテーションではなさそうだが、本人と言うわけでもない「誰か」と無限に戦い続ける必要がある。
しかし、この迷宮でしか手に入らない宝があり、それを手にする為に彼らは時折この迷宮に足を運ぶのであった。

「…とりあえず、何を優先すべきか…」

迷宮の入り口を背に、ライトニングはぽつりと呟いた。
その声は小さかったが、人のいない静かな迷宮では充分すぎるほどの音量を持っていたのか通路にこだまする。

今日も今日とて、彼らはこの迷宮にやってきていた。
入り口を入ったとたんに仲間たちの姿が消える…仲間たちは皆、それぞれに出口を目指しているはずだ。
運良く合流できれば共に戦うことも出来ようが、思うように仲間と合流できないと言うのもまた事実。
そのことをよく知っているからこそ、ライトニングは少し逡巡する。
仲間と合流するのを優先すれば良いか、それとも先へ進むのが良いのか。

「…何にせよ、進むしかないな」

その声は先ほどと同じように回廊の中で静かに響き渡る…そこにライトニングしかいないことを、孤独な戦いを続けて行かなければならないということを示すかのように。
やがてその声の残響が消えたと同時にライトニングの耳に届くのは足音…仲間か、それとも仲間に似た「誰か」なのか。
武器を片手に警戒する…この迷宮では一切気を抜くことができないのはライトニングもよく知っていた、から。

仲間やかつて剣を交えた者たちに…時には自分自身によく似た「誰か」を、ライトニングは冷静に討ち倒して行く。
一刻も早く仲間達と合流しなければならない。ひとりで戦い続けることが出来ないわけではないが、それでも迷宮が深くなるにつれ力をつける「敵」に打ち勝つには一人では厳しいこともあり…
ライトニングは足早に、どこまでも続く回廊をひとり進んでいく。

そしてまた正面から聞こえてくる足音…
ライトニングの表情には自然と警戒が浮かぶ。そして、武器を手に足音の主に目を凝らす…

「…あれは…」

ライトニングの目に映ったのは…見間違うはずのない「誰か」。
確かに普段の彼とは大きく違う。髪形も違うし、身につけているものもどこか普段と違って見える。
しかし大きく違う部分があるとは言え…束ねた長い銀色の髪、身につけた武器の数々や…そしてその顔を見れば判別がつく。
いや、つかないわけがない。ライトニングにとっては、決して間違えたり出来ない存在…なのだから。

「…新手か…覚悟!」

目の前にいる「誰か」はライトニングの姿を認めると剣を抜き戦う構えをとる…
聞こえる声は紛れもなく、ライトニングにとっては一番聞き慣れた声で。
だがそこに、ライトニングがいつも聞いているような穏やかさはない。寧ろ、戦いの中にいるときの…一番強く、熱くたくましい姿をみせている時の声。
今の「彼」からは戦う意思しか感じられない―いつも自分の側にいる、自分を愛しているとはっきりと言い切るフリオニールとは別人だと認めたライトニングも同じように武器を取り構える。

「お前がフリオニールだと言うのなら…なおのこと、私は負ける訳には行かない」

ライトニングには迷いはない。そこにいる「フリオニール」に駆け寄ると構えた武器を大きく振りかぶり、何の迷いもなくそれを振り下ろした―
それをかわす身の動きさえもフリオニールのそれとよく似ていて、戦いの最中だと言うのにライトニングは奇妙な気分に陥る。
決して、彼と戦うことに躊躇いがあるというわけではない。今目の前にいるのはフリオニールではなく、フリオニールによく似た「誰か」―それは分かっている。
戦いに躊躇いなど持っていないがだからこそ、なんだか妙な気分になるのだ。
しかしそんなことを考えていると目の前に迫ってくるのは「フリオニール」が自分に向かって投げた斧。ライトニングは間一髪のところで後ろに身を翻し、その斧をかわす。
…考えている余裕は…なさそうだ。


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