心の靄を晴らすのは-1/4-
その日はひずみの解放に向かった仲間たちの帰りが遅くなったので他の仲間たちだけで夕食を取っていた。
そうなってくると話題の中心になるのはその場にいない仲間達…ここまではごくごく自然な話であるわけで。
「しっかし、フリオニールもなー。真面目で熱血なのにどっか抜けてるからなー。ほら、あの話…酷かったっスよね」
そんなことを話しながら食事を続けるティーダ。
どうやら話題の中心は今ひずみの中にいるフリオニールであるようだった。
「あー、あの話はなー。確かにフリオニールらしいとは思ったけど」
「…オレはノーコメントってことにしとく。気持ちは分からなくもないし」
バッツやジタンもそう口を挟む。そして、ティーダとジタンは顔を見合わせて揃って思い出し笑い。
ライトニングはその話を聞くでもなく聞いていた…話題の中心がフリオニールだからと言って露骨に話に加わりに行くのも妙だろうと自分では思っているからなのだが。
しかしながらそんなライトニングの意思とはお構いなしにティーダが声をかけてくる。
「なあ、ライトはどう思った?あの、偽王女の話聞いたとき」
「偽王女…?その話は聞いたことがないな」
確かにフリオニールからは元の世界の話を色々聞かされている。だが、偽王女なんてキーワードがフリオニールの口から出てきた記憶は一切ない。
その発言を聞いたティーダの方はなんとも意外そうな表情を浮かべてライトニングを見る。
「え?知らないんスか?フリオニールが元いた世界で王女様に化けたモンスターの色仕掛けにコロッと引っかかったって話」
「…一切知らないが…随分面白そうだな、詳しく聞かせてもらおうか」
自分でもどこからこんな声が出たのかと思うほど低い声でそう言ってライトニングはティーダを見る…一瞬ティーダの表情が怯えるようなものに変わったような気がしたが、今のライトニングはそんなことは気にしていない。
何がこんな声を出させたのかははっきりと分かっている。キーワードは…「色仕掛けに引っかかった」。
別にフリオニールが元の世界で誰とどんな関係であろうが関係ない、と思ってはいるが…やはりそんな話を聞かされて気分がいいわけはない。
だが、この話をこのまま聞かずにいられるはずもなく…
「ってか…ティーダお前、普通に考えてみろ。自分がフリオニールの立場だったとして『あの話』、ユウナにできるか?」
ジタンが呆れたように呟いて、そこでティーダは気がついたのか表情が変わる。
「あ!…え、えーと…で、出来ない…っスね…あはは」
ティーダは笑って誤魔化そうとしているようにも見えなくはないが、それでもライトニングの表情をチラリと伺うとまた怯えた表情になってそっとライトニングから目を逸らす。
…何をどう考えてもこの反応は失礼に当たると思うのだが、今はそんなことはどうでも良かった。
「で、話の続きだが?」
「…お、おれちょっとスコールんとこ行ってくる…」
「オレはちょっと、この後クジャんとこ行ってくる約束してて…」
バッツとジタンはそそくさとその場を後にする。その場に残されたのは、ティーダとライトニングの2人だけ。
「えーと…ふ、フリオニール本人から聞いてもらえないっスかね…」
「さっきお前が自分で言っていただろう、自分がフリオニールの立場だったらユウナには言えないと。私が聞いたところでフリオニールが答えると思うか?」
「…ごもっとも」
観念したようにティーダは座りなおし、言葉を選びながらフリオニールから聞いたという話をぽつりぽつりと語り始めた。
「…つまり…っスねえ…その、フリオニールの故郷の国の王女様が…偽物でモンスターで」
「それはさっき聞いた」
「えーと、なんでモンスターが王女様になってたかっていうとフリオニールをだまし討ちする為で」
そこからティーダの言葉は続かない。ライトニングは先を促すかのようにティーダに視線を向ける…そこでティーダの表情がまた凍りついたように見えたのは気のせいだろうか。
「で、その偽王女様がフリオニールを油断させる為に寝室にふたりっきりで、ベッドの上から手招きとかされちゃってフリオニールはついふらふらっと…」
「ふらふらっと引っかかった、と言うわけだな」
ティーダは小さく頷く。しかし、すぐに何かに思い当たったようにまくし立てる…流石にフォローしておかないとまずいとでも思ったのだろうか。
「…でも信じてあげてほしいっス!最終的に何もしてないらしいんで!つーか手を出そうとしたとこで偽王女が正体をあらわして仲間が助けに来たらしいんで!あと、別に王女様とは恋人同士だったとかそう言うんじゃなかったらしいし!」
「つまり、裏を返せばフリオニールは恋人でもなんでもない女性に手を出そうとしたということになるな」
そこでティーダは2度目の失言に気付いたのか頭を抱える…ライトニングはそのティーダに一瞥をくれるとそのまま立ち上がる。
「概要は分かったが…礼は言わないからな」
分かっている、元の世界のことは元の世界のこととして、この世界にいる間はフリオニールは自分だけを見ていることは分かっている。
だがこの、胸に何かが重くつっかえているような…この気持ちは何なのだろうか…
気分が晴れないまま、ライトニングは食べかけた夕食の皿をその場に置いて立ち去っていった。
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