左手の約束-3/3-






「ああ、それと…お前の世界ではどうだったかは知らないが」
「何が?」
「左手の薬指に指輪をする意味…だ」

フリオニールは首をひねる。彼自身指輪をつける習慣はあるが、この指輪はやはり力を求める為や魔法の補助に使うための程度のものでどの指につけるかなんて意味を考えたことなどない。

「知らないようだな。それならそれでいい…だが」

一度言葉を切ったライトニングは再びフリオニールの左手の指輪にそっと触れる。

「いつか別の世界に還る私たちの間に『永遠』はない。だが…少しでも『永遠』に近くあるように、と願うくらいは許されていいと思うんだがな」

それだけ言い残してライトニングは立ち去ってゆく。
先ほどからユウナがライトニングの方をチラチラ見ながら待っていたので、ユウナから何かライトニングに用事があるのかもしれなかった。

「『永遠』に近くあるように…?」

フリオニールは指輪の嵌まった左手を上にかざし、その指輪をじっと見つめる。
ライトニングの言う意味は分からないが、それでも…そんな意味を持って贈られた指輪だと思うとなんだか不思議と頬が緩む。
そんな重量感のあるデザインではないがその指輪ははっきりとフリオニールの中で確かな重みを持っているように感じられて―

「あれ、フリオニールその指輪…」
「あ、セシル」

昨日の一件を知っているセシルに見つかったのは少々恥ずかしいことになるかもしれない、と思いながらどう誤魔化そうかと考えていると、そのフリオニールよりも先にセシルが口を開いた。

「よかった、ちゃんとライトから受け取ったんだね、それ。さっき聞かれたんだ、同じ指輪をフリオニールにも渡したいから買うのに必要な材料を教えてくれって」
「…そりゃまあ、確実に材料知ってるのはセシルと俺だけだもんなあ…」

しかしだからって、いくらセシルが自分たちの関係を知っているからといって大っぴらに聞くのはどうなんだろう…などとフリオニールはぼんやりと考える。
フリオニールのその考えはまったく意に介さない風のセシルは、いつものように笑顔をたたえながらそういえば、と口を開く。

「フリオニール、その指輪の名前…知ってたっけ?ライトは知らないって言ってたけど」
「あ、そう言えば名前は見ていなかった気がするな」
「…そっか、じゃあ…フリオニールにも教えてあげようかな」

相変わらず笑顔を湛えたままのセシルは、ゆっくりと口を開く―

セシルが教えてくれた「答え」を聞いて、フリオニールは思い出した。
左手の薬指の指輪の、その意味を。
そして理解した…少しでも『永遠』に近くあるように、と言ったライトニングの言葉の意味を。

「そうか…そうだったのか」

指輪は相変わらず、フリオニールの左手で確かな存在感を放っている。
それは丁度、彼の心の中にライトニングが消えない存在感を刻んでいるように、はっきりと…

セシルが教えてくれた答え―「エンゲージリング」。
結婚の約束をする時に使うのと同じ名前のこの指輪にライトニングが込めた『願い』をしっかりと受け止め、フリオニールは無意識にその指輪を指先で撫でていた。

あの時ライトニングが言ったように、今はフリオニールも願っていた。
結婚なんて、永遠なんて自分たちには願えない、けれど。
それならばせめて少しでも、永遠に近くあるように…と。


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