左手の約束-1/3-






モーグリショップとは別に、この世界には時折小さな店がある。
店主はすっぽりとフードを被り、顔を見せようとしないし声を発することもないのでこの店主が何者であるのかは彼らにもわからない。
取引の材料になるのがKPではないのでモーグリではないだろうが、戦士たちとイミテーションとモーグリしかいないはずのこの世界で一体誰が何の目的で店を営んでいるのか誰にも分からない。
過去の戦いで散っていった戦士の魂ではないかとかカオスに仕えていた誰かがこっそりと店を開いているのではないかとか、はたまたKPではなくギルを集めている変わり者のモーグリではないかとかフード被ってるしもしかしたらトンベリかもしれないとか彼らは囁きあっていたが…しかしながら、店主の正体は実はどうでもいいのであった。
大事なのはこの店が、モーグリ達が営む店とはまた違った商品を多数取り揃えており、そして彼らはその上得意であるということであって。
そして今日、ウォーリアオブライトから使いを頼まれてこの店を訪れたのは…フリオニールとセシルの2人だった。

「今日は何買って帰るんだっけ」
「えーと、頼まれてるのはスコールが使う武器の素材とバッツに頼まれた腕輪の素材と…それとイーファのしずく。あとは、ギルや材料が余ってる場合に限り欲しいものがあったら買ってもいいって」
「ああ、そう言えば俺出がけにティナにイヤリングが欲しいって頼まれてたんだった。それも買って帰るか」

トレードするための素材やギルの入った袋の中に入れたメモを読み上げながらセシルは店の中をきょろきょろと見回す。
乱雑に武器防具やアクセサリが並べられた棚を見回りそしていくつかのアクセサリや武器などを手に取り、セシルとフリオニールは手際よく目的のものを揃えていく。

「ん?」

そこでフリオニールの目を引いたのは、「新商品入荷しました」と言う張り紙。
その張り紙の近くに置かれていたのは…ひとつの指輪だった。
然程凝ったデザインでもなく、性別を問わずにつけられそうなその指輪がふと気になってフリオニールはそれを手に取った。

「どうしたの、フリオニール」
「ああ、この指輪…何か気になって」
「どれどれ」

セシルもフリオニールの後ろからその指輪の置いてあった棚を覗き込み、そしてあまり綺麗とは言えない字で書かれた説明書きを読む。

「稀に仲間を呼ぶ力残す指輪…って書いてあるね」
「仲間を呼ぶ力、か。それは…あるとありがたいな」

フリオニールにも経験がある。自分の力だけでどうしようもない時、仲間を呼ぼうにもその力が残されていないことが多々あった。
逆に自分が…目の前で戦っているライトニングが危機に陥っているのにそのライトニングに自分を呼ぶ力が残っていないが故に自分には加勢できず、一方的に攻撃される姿をただ見ていることしか出来ないこともある。

「これ買うにはそこそこ貴重品と交換しないといけないみたいだけどね…でも、必要な材料は残ってる」

セシルは預かってきていた交換材料の袋を覗き込みながらそう言って、フリオニールに笑いかける。

「買ってもいいんじゃないかな。ライトにプレゼントしたいんでしょ?」
「い、いや別にそう言う意味で見てたわけじゃ…」

誤魔化すようにそう言うが、実際セシルの言うことは間違っているわけではない。
この指輪があればライトニングを手助けできなくて悔しい思いをすることもなくなるかと思ったのは事実だったし。

「まあ、ライトにプレゼントかどうかは置いておいてもいい品物であるとは思うんだけど…と言うかほんとに結構な貴重品が要るな。こんなの俺達の独断で買っちゃっていいのかな」
「でも、皆で共用するって考えたら悪くないんじゃない?代わりに悪い効果がくっついてくるようなことは書いてないし」

確かに、この店で取り扱っているアクセサリには都合のいい効能と引き換えに副作用と言ってもいい効果を引き起こすものも多々売られている。
そういった、悪い効果を併発するような記載はどこにもない。
それにきっと、仲間を呼びたい時に力が残されていなくて悔しい思いをしているのは自分だけではないはずだ。

「まあ、買って帰るのも悪くない、かな」
「うん。大丈夫だよ、ライトに渡してくれていいから。使いたくなったらライトに借りに行くし」
「だから別にライトにプレゼントするために買うわけじゃなくて…」

まったく悪気なく図星を突いてくるからセシルの扱いは難しい。
はぁ、とフリオニールはひとつ息を吐きながらもセシルが袋から取り出した交換材料を受け取り、店主の下へその指輪を持って歩み寄った。


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