愛の食卓-2/3-
とりあえず一口分をフォークでどうにか切って口に放り込んで、セシルは目を閉じる。そして目をゆっくりと開くと感想を一言。
「うん、その…何て言うんだろうね。食べられないものではない…でも何ていうんだろう、気を悪くしないで聞いて欲しいんだけどねライト、これ…やっぱり美味しくはない」
「いっそ食えないくらいまずかったら食わなきゃいいだけなんだけど…食えるんだけどまずいってのがなー」
なんとも言葉にしがたい表情を浮かべたままセシルの言葉に答えるのはバッツ。
―確かに、セシルとバッツの評価はかなり的を射ている。
食べられないほどまずいわけではない。食べることは可能だが、しかしまずい。
「そこへ持ってきてこの食感がな」
クラウドが取りまとめるようにそう言う。確かに、フォークで突付いた時に感じた妙な感触そのままの奇妙な食感が口の中でそのまま展開されるのである。
結論としてやはり、食べられなくはないが好んで食べたいものではない…と言うのがほぼ全員の一致した見解のようだった。
「そんなまずいまずいと連呼しなくてもいいだろう、微かに残ってる記憶を辿ってみてもその時料理していた記憶が殆どないし、何とか思い出せた道具がなかったしだな」
「そ、そうですよね。これから多分また当番が回ってくることもあるしそこで練習すればいいんですよ」
「料理なんてのは慣れだしね。私も教えてあげる」
あからさまにむっとした表情を浮かべたライトニングをフォローするようにユウナとティファがそう言ってライトニングの肩をぽんぽんと叩く。
「私、明後日食事当番なんだけど…ちゃんとできるか心配になってきた」
周囲の状況やライトニングの様子を見ていたティナが不安そうに漏らす…そりゃあ、あからさまにまずいものが出てきた時の仲間のこの態度を見れば心配になるのも仕方ないと言うものであろう。
この状況では誰も「大丈夫」と言う言葉をかけられず、なんとも微妙な空気を残したまま食事の時間は進む。
「…ごちそうさま」
唯一、美味いともまずいとも言わず、表情すら変えずに黙々と夕食を口に運び続けていたフリオニールが短くそう言ってすぐに立ち上がった。
流石に味が味なのでなかなか食が進まない他のメンバーは早々に食べ終えたフリオニールを驚いたように見る。
「つーか完食してるよ、アイツ」
「女の子の手料理ってだけで嬉しかったんじゃないっスか?」
「ああ、フリオニールは初心で奥手だからなあ」
などとバッツやティーダ、ジタンが囁きあっているのを知っているのかいないのか。フリオニールは足早にその場を立ち去った。
その背中に視線を送り、ライトニングはどうしても言葉がかけられなくて…少しだけ俯き、そして自分の作った夕食に手を伸ばした。フォークで切り分け、一口食べる…
「ああ…これはまずいな」
自分で食べてみて皆がまずいまずいと連呼する理由がはっきりと分かり、ライトニングはひとつ溜め息を付いたのであった。
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