長い夜を越えて-1/3-






理由もなく眠れない、なんてことは人間ならば誰しもありうる話で。
例えば悩みがあるとか、疲れすぎて逆に眠ることも出来ないとか、直前までワイワイとはしゃぎすぎて眠る気分になれないとか。
特に彼らは、16人で移動していて4人ずつ4つのテントに分かれて眠ることが多いので誰か1人が眠れないと言うことになると巻き込まれて同じテントのメンバーもなんか寝られない…などと言う悪循環が起こったりすることもある。
ただその日はそんなこともなく、その日何故か眠れないのはフリオニールひとりだったわけで…

眠れない理由に心当たりはある。単純に、他の仲間がひずみの解放に向かっている間に少し眠気が来たので寝ていたら寝すぎてしまっただけなのではあるが…
それでも、明日は別のひずみを探索に向かうと言われているし自分もその探索に加わることになっている。早く寝なければ、と思うほど余計眠れなくなる悪循環―
身体を起こすと、ぐっすりと眠るスコールとウォーリアオブライトの姿がある。
クラウドも一緒のテントだったが、先ほど見回りの当番の時間が回ってきたとかでヴァンが起こしに来て、そのままテントを出て行っている。
それにしても何がどうなってこんなに無愛想な人間ばかりこのテントに集まってしまったのだろう、などと思いながらもフリオニールは溜め息をつく。
そんな余計なことを考えてはみたもののこのテントにいて眠れるかと言うとそんなことはなく、フリオニールは2人を起こさないようにテントからそっと這い出した。
テントの外の空気に当たれば気分が変わって眠れるようになるかもしれない。
今日の野営地はクレセントレイク近くの森の中…湖でも見ていれば気分が変わるだろうと思って野営地を少し離れたところで…バスターソードを手にしたクラウドが歩いているのを見つけた。

「見回り、ご苦労さん」
「なんだ、まだ起きていたのか」

フリオニールが眠っていなかったことを知っているクラウドはその姿を認めるとすぐに事情を察したらしく声をかけてきた。

「昼間寝すぎたせいで眠れなくてちょっと気分転換にテントを出てきたんだけどさ…クラウドが迷惑じゃなかったら見回りに付き合わせてもらっていいか」
「そうか…」

ふむ、とクラウドは何かを思案するように腕を組み、何かを思い出したように眉を動かす。
そのまま思いついた内容を確認するかのごとくひとつ小さく頷いてから口を開いた。

「悪いがもうすぐ交代の時間なんだ。俺はもうテントに戻るから、次の見回り当番を起こしてきてそいつと一緒に見回りをすればいい」
「ああ、そうか。で、次の見回りって?」
「ライトニングだ」

その名前を聞いたときにフリオニールはやっと気がついた。クラウドが思いついたことはそのことで、もう戻るというのは彼なりの気遣いも含まれているのだということに。

「…分かった。ありがとう、クラウド」
「礼を言われることじゃない」

クラウドの言葉をそのまま受け取れば確かにどこにも礼を言うような要素は含まれていない、しかしそれでもその言葉の裏に秘められているものに気付いたからこそ…フリオニールの「ありがとう」はそこに向けられたものだった。
フリオニールはそのまま女性の眠るテントへと足を向ける…
しかし、ライトニングはともかくとして他の女性が眠るテントの中に入るのも躊躇われて、テントの入り口の前に立ったはいいもののそこからどう声をかけるべきかと逡巡する。
声をかければいい話なのだが、中に届くほどの声を出して他の仲間を起こしてしまってもいけない。かと言ってライトニングだけを起こすために中に入るというのも…
その躊躇いからうろうろとテントの前を歩き回っているフリオニール。逆にこの現場を他の仲間に見つかったらあらぬ誤解を受けてしまいそうではある。
声もかけられないし当然中には入れない、その状況で彼の耳に届くのはその足音だけ、と言う状況…その時に、テントのほうからごそごそと衣擦れにも似た音が響く。

「クラウドか?別に呼びにこなくても私はとっくに起きて…」

言いながらテントから顔を覗かせたライトニングは、そこで躊躇しながらうろうろとしているフリオニールを見て驚いたように言葉を止める。

「フリオニール…お前、何してるんだ。こんな時間にそれもこんなところで」
「いやその、別に何かしようって言うんじゃなくて、眠れなくて外に出たらクラウドがいて、見回りに付き合うって言ったら次の見回りはライトだからライトと一緒に行けって、ついでに起こして来いって頼まれて…その」
「…多分それが真相なんだろうが、それなら少し落ち着け。他の仲間だとお前が夜這いでもしに来たんじゃないかと誤解するぞ」
「す、するわけないだろそんなこと」

その誤解の可能性があったからこそ何も出来ずうろうろしていたことを考えれば随分な物言いだとは自分でも思う…しかし、テントから這い出してきてそのまま立ち上がったライトニングはこちらを見て確かめるようにひとつ頷くとそのまま歩き始めた。
フリオニールは今度は何のためらいもなくそのあとに続く。ライトニングは少しだけ立ち止まり、フリオニールが追いつくと少し歩幅を上げて…フリオニールと同じ速さで歩き始めた。


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