惑い、想い-4/4-






「知らないままでいられたならこんな風に思うこともなかったんだと思う。でも」
「知ってしまったら…私と一緒にはいられない、か?」
「違う…そうじゃないんだ、ライトとは一緒にいたい、でも…またどこかで、俺と一緒にいることでライトを何かの犠牲にしてしまうんじゃないかって…それが、怖くて」

フリオニールの両腕が、座ったままのライトニングの肩に触れる。
かすかに震えている…ように感じるのはライトニングの気のせいか…それとも。

「…そう考えたら俺はライトと一緒にいちゃいけないんじゃないかって、そう思って…」
「お前の様子がおかしかった理由は分かった。だがまず、お前はひとつ勘違いをしている」

ライトニングは腕を組んで、フリオニールとしっかりと視線を合わせる。
フリオニールの視線は逃げない。ライトニングの言葉を待つように、じっとその瞳を捉えている。

「別に私があの時次元の扉を壊すという選択をしたのはフリオニール『だけの』為じゃない。お前の為『でもあった』のは確かだが…だが、私の選択の原因はお前じゃない」
「…………」

左肩に置かれたフリオニールの右手に、そっと右手を重ねる。
その手はどこか冷たくて…何故だろう、ライトニングは今フリオニールを暖めなければいけないようなそんな義務感に囚われた。

「だからお前が自分を責める必要はどこにもない…それをまず前提とした上で」

そこでライトニングはひとつ息を吸い、フリオニールの瞳を真っ直ぐに見据えたまま更に言葉を紡ぎだす。

「私はあの選択が間違っていたとは今でも思っていない。そうすることによって、あの時遺して行ったお前たちは一度『還る』ことができた」
「だから、俺はそれがまるでライトたちの犠牲の上に成り立ってるみたいで…」
「だが、今こうして何の因果か私たちもお前たちもこの世界に戻ってきた。寧ろ、お前たちが一度神々の戦いを終わらせたから私はこの世界に戻ってこれたのかもしれない」

重ねただけの右手を緩く握り、ライトニングは一度目を伏せた。詭弁だと言われたらそうかもしれないが、しかしそれがライトニングの偽らざる本音だというのもまた確かで。

「仮にそうだとしたら、お前は私を犠牲にしていたとしても結果的に私を救った…それでいいじゃないか」
「…そう言われても流石に、はいそうですかって納得はできない…でも」

握られていたのとは反対の、右肩に置かれていた左手がそっとライトニングの背中に回る。そのまま引き寄せられ、ライトニングは頭をフリオニールの胸に預ける形になる…
聞こえる鼓動が何故か、ライトニングの心に優しいぬくもりを与える。握った手は冷たいのに、フリオニールの存在そのものが暖かい。

「ライトが自分が正しいと信じていたんならそれを受け容れる。その代わり、ひとつ約束してくれないか」
「約束?」
「今度は消えたりしないって。俺を守るために俺から離れたりしないって約束して欲しい…君を見送るのなら、元の世界へ還る君を見送りたいから」

フリオニールの言葉は聴きようによっては子供じみた我が侭と聞こえる。
しかし―ライトニングはフリオニールの心の中に深く残された傷痕に初めて触れた気がした。きっと今まで誰にも曝け出すことのなかった傷痕を、フリオニールは今ライトニングにだけははっきりと見せている…
他の誰にも見せない「脆さ」に触れたライトニングは思っていた―この世界にいる間はフリオニールから絶対に離れてはいけない、と。

「ああ、約束する。この世界に在る間は私はお前から離れたりしない…ずっと、一緒だ」
「約束だぞ…それに、嫌だって言っても俺がライトを離さないから」

重ねていた手が解かれ、フリオニールの両腕が座ったままのライトニングの背中に回される…ライトニングは岩から降りて立ち上がり、フリオニールに身体を預けた。
抱きしめる腕の力はいつもより強い。嫌だと言っても離さない、その言葉を証明するように。

「嫌だなんて言うわけがないが、な」

自分を放すまいと、どこにも行かせまいとするかのようにきつく抱きしめるフリオニールの力強さを感じながらライトニングは目を閉じた。
絶対にフリオニールから離れてはならないと誓うように。
それ以前に、絶対に離れることなど出来ないという想いを確かめるように…



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