遠い遠い世界で-3/3-






「お前を見ていると私ももっと強くならなければいけないと…そう思えた」
「ライトはもう充分に強いじゃないか。それに、ライトにだって俺の知らない過去がある―その過去を乗り越えて今がある、それはライトだって同じはずだろ?」
「ああ、そこまでは同じかもしれない。だがだからこそもっと強くなりたい―この世界で、なお成長し続けるお前と共にいる為には現状で満足していてはいけないと思えたんだ」

浮かんだ微笑みも、フリオニールの頬に触れた手も。全て自然に出ていたものだった。
別々の世界に生まれ、別々の道を歩んでいたはずのふたり。だがこうして運命の悪戯は本来ならば交わるはずのないふたつの人生を気まぐれにほんのひととき重ねてみせた。
何もなければ出会わなかったはずのふたりがこうして今、共に在り触れ合い互いのぬくもりを感じている。その奇跡の意味など考えたこともなかった、が―もしも、そこに意味があるのだとしたら。
こじつけだと、思わなかったわけではない。だがその言葉は自然とライトニングの唇からあふれ出していた。

「私ひとりでは持ち得なかった強さを、お前は持っている。お前のその強さがとても眩しいし、羨ましいと感じている。だからこそもっと強くなりたい―この世界を離れてもなお消えない強さを」
「…それなら俺は、そのライトと一緒にもっと強くなるさ―どんどん強くなる君に愛されるのに相応しい男でいたいから」

フリオニールのその答えはなんとなく予想出来ていた。
そんなフリオニールだからこそ愛したのだから。だから―その言葉にはもう言葉ではなく、ただ唇を触れ合わせることだけで応える。
唇が離れ、向かい合った瞳に浮かぶのは穏やかな笑顔。その笑顔の奥には、決して折れないと誓える強さを秘めている―そして、フリオニールの瞳に映るライトニングの表情にも同じ強さが宿っている―彼女自身はそのことには気付いていなかったが。

「でもさ、これで…元の世界に還っても、気を抜けなくなっちゃったな」
「どういうことだ?」
「俺と離れた後、いつライトが俺の夢を見るか分かんないだろ?そのときにライトを失望させたくないからさ」

冗談めかしてそんなことを呟いたフリオニールに、思わず小さく吹き出す―そんなことを心配している目の前の恋人がなんだかとても可愛らしい生き物であるかのように思えて、ライトニングは頬に添えていた手を外すと腕を伸ばし、バンダナごしにゆっくりとその頭を撫でた。

「まあ、あまりにも情けないようだと少しはがっかりするかもしれないが…それはお互い様だろうな」
「あ、そうか…俺がライトの夢を見ることもあるかもしれないのか。でもライトの元いた世界の夢を見ても俺には何がなんだかさっぱり分からないんだろうなあ」

しみじみと呟かれたそんな言葉が更に可笑しさをかきたてる。確かに、夢で見たフリオニールの生きていた世界は自分たちの世界とは程遠い世界ではあった。
文字通り生きてきた世界が違うと感じさせられた風景―夢の中で見た、緑に包まれた世界のことを思い出しながら言葉は自然とライトニングの中からあふれ出していた。

「だが…お前の世界を見て、美しいと思った。その世界を守ろうとしているお前や、その仲間達も含めて美しいと」

その言葉は嘘でも大袈裟でもなく―夢で見た緑、人の手の入っていない広い広い大地はライトニングの目には逆にとても新鮮に映っていた。
そこにフリオニールがいるからなんて陳腐な理由ではなく本当に綺麗だと感じられたその世界―自分がその中にいられないことが歯痒かったのは、もしかしたらそのせいもあったのかもしれない。

「多分、一番の都会でもライトのいた世界から比べたらとてつもない田舎だと思うけどな」
「だが…その世界に、叶うことならばいつか行ってみたいと思った―お前の世界で、お前と共に歩いてみたいと。決して叶うことのない望みだというのは分かってはいるが」

浮かんだ考えを確かめるように一度目を閉じる。目を開いたときに自分に浮かんでいた柔らかな笑顔の理由はきっと―言葉には、しなくていい。
フリオニールを抱き寄せた腕を放すと、ライトニングはゆっくりと歩き始めた。自分たちがそもそも見回りをしている最中だということを思い出したのか、フリオニールも無言のままその後に続く。

「今度は…そんな夢を見ることが出来ればいいんだがな」

漏らした呟きは、フリオニールには聞こえなくていい。
彼女らしくもなく幼いその望みは胸に仕舞いこんで、ライトニングはただただ背後にフリオニールの気配を感じながら歩き続けていた。



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