遠い遠い世界で-2/3-






やがて仲間達が起き出し、朝食を取るとひずみに向かうことになっている者たちは急ぎ足に野営地を後にする。
他にも、ショップへの買い物を頼まれている者やウォーリアオブライトからシャントットへの手紙を預かっている者、テントに綻びがあるのが見つかったのでその修繕を言いつかっている者などそれぞれが自分のなすべきことを成している中―ライトニングは、特に何を言われているわけでもないためか武器を手に周囲を警戒するかのように歩き回っていたフリオニールへと近づいていった。

「見回りか?」
「あ、ライト…ああ。イミテーションが近づいて来たら大変だからな」
「私も一緒に行っていいか」

問いかけるような言葉ではあったものの、フリオニールの答えを待たずにライトニングはその隣に立って歩き始めていた。もとより、フリオニールがその申し出を断るとも思っていなかったし。
答えも聞かずについてきたライトニングに、フリオニールは微かに苦笑いを浮かべるがその表情から特に迷惑に思っているというものも感じられない。当たり前のようにライトニングの隣に並ぶと、少し歩調を落としてフリオニールもまた歩き始めた。
暫くは黙ったまま辺りの様子を見回っていたが、ライトニングの中には勿論早朝に見た夢のことがある。どうやって切り出すべきか、ほんの少しだけ考え―すぐに小さく首を横に振った。ややこしく考えすぎる必要はどこにもないのだから。

「今朝…不思議な夢を見たんだ」
「へえ…どんな夢なんだ?」

唐突にも思えるかもしれないライトニングの言葉に笑顔を向けるフリオニール。きっと興味を惹かれたのだろう、その瞳には彼らしい好奇心の色が宿っている。
一度その真っ直ぐな眼差しから目を逸らし、ライトニングは空を見上げる。夢の内容を、細かく思い出すように。

「夢の中の世界は―強大な力を持つ帝国による支配の進んでいる世界だった。その支配に抗うべく反乱軍が組織され―その反乱軍に保護された若者がいて、だな」

ちらりと視線を上げ、フリオニールの様子を窺う。その表情にはかすかな驚きが含まれているように見える―自分が見た夢の内容が自分の推測どおりだとしたら、彼にもきっと何か思うところがあるのだろう。
しかし、言葉を発することはない。きっと自分の話を待っているのだろうと勝手に自分に言い聞かせ、ライトニングは夢の続きを思い出すかのように言葉を紡いでいった。

「始めはひ弱に見えていた若者たちも戦いを重ねていく中で一端の戦士として成長していく―その為に、多大な犠牲を払いながら。そのたびに涙を零し、哀しみに打ちひしがれながらも打ちのめされることはなく戦い続けた」
「ライト…それ」
「…気のせいかもしれなかったが、先頭に立って戦っていた若者は―お前に、良く似ていた」

ライトニングは自然と足を止め、フリオニールのほうを見つめていた。
ずっと後姿しか見えなかったが、絶対に見間違うはずなどないと確信できていた。あれはきっとフリオニールだったのだと―そして、夢の中で見た若者たちの戦う姿はフリオニールから聴いたことのある「元の世界の話」ととてもよく似通っていた、から。
だからこの話をフリオニールに聞かせたかった。彼がそれをどう思うか、それだけが気がかりではあったが―視線の先にいるフリオニールの表情には、驚きこそあれ不快感は全く見受けられなかった。
もしもこの話をフリオニールが嫌がるのならこれ以上話すつもりはなかったが、そうではないと自分に言い聞かせてライトニングは言葉を繋ぐ。

「何故私がそんな夢を見たのか、それはわからない」

そこまで言って、ライトニングは大きく息を吐いた。そのまま一歩足を進めて振り返り、フリオニールのほうへと腕を伸ばす。
伸ばした腕はすぐにフリオニールの背中に回され、その背中をゆっくりと撫でる。フリオニールの表情を見ることも彼の感情を読み取ることも今のライトニングには出来ない。ライトニングに出来るのはただ―今の彼に、夢を見ながら感じた言葉の全てを伝えることだけ。

「…何も出来ない自分が歯痒いとも思ったが、そもそも私が何もしなくてもお前は自分で苦しみを乗り越え、そして強くなった―」
「自分ではそこまで考えてなかったけどな。ただひたすらにがむしゃらに戦い続けてただけだったけど」
「だがその結果今の、私が愛したお前がこの世界にいる」

顔を上げるとフリオニールはじっとライトニングを見つめていた。続く言葉を待つかのように―その視線はライトニングにとっては何にも変えがたいほど大切で、そして愛しいもの。
その彼を形作る片鱗はきっと―夢の中で見た、数多の戦い。己の力ではどうにもならない事実に対して膝をつき嘆きながらも立ち上がって戦い続け、その中で芽生えたフリオニールの強さが今、その視線に宿ってライトニングを真っ直ぐに捉えている。
そうして作り上げられた強さをその身と心に宿し、彼は調和の神の戦士として神々の戦いを終わらせるために一役買っていた。そして今もこうして、神を喪った世界で戦士として戦い続けている―


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