遠い遠い世界で-1/3-






それは、不思議な夢だった。
ライトニングの生まれ育った世界に比べればよほど文化的には未発達で、緑に溢れたその世界。夢の中とは言え美しいと素直に感じることのできたその世界は戦乱の最中にあった―
ひとつの大国が様々な手段を用い、人を、街を、国を支配していく。支配と殺戮が続くその世界、人々の表情には笑顔などなく皆が疲れ果てていた。
まるで芝居でも見ているかのように、その世界に自分が介入することが出来ない。ただ、兵士に、魔物に、災害に、兵器に。蹂躙されていく人々を見ているライトニングの中にあった感情はただ、もどかしさだけ。
そんな中―大国の支配に抗い立ち上がった反乱軍の本拠地から旅立つ若者たちの姿が目に留まる。
戦火を煽る風が靡かせるその銀色の髪と空を映したような長いマントの後姿…それは間違いなく………


「…一体何だったんだ、今の夢は」

いつものごとくテントの中で目を覚ましたライトニングは軽く頭を押さえながら上体を起こす。テントの幕の隙間からうっすらと漏れ来る、未だ弱い太陽の光。推測するに、まだ夜明けからさほど時間の経っていない頃合らしい。
ティファもユウナもティナも未だ眠りの中にいる―時間が早いこともあり寝なおそうかとも考えたが、先ほどまで見ていた夢の内容のことが心に引っかかってどうにも眠れそうにない。
ライトニングはひとつ息を吐くと、仲間達を起こさないように手早く身支度を整えてそっとテントから這い出した。
夜明け前の清冽な空気がライトニングの肌を撫でる。微かに肌寒さを覚えながらも、ライトニングは足音を殺すように仲間達のいるテントから遠ざかっていった。
そのまま足を向けたのは、すぐ近くにあった湖―未だ全ての輝きを取り戻したわけではない太陽の、弱弱しい光をそれでも受けて微かに輝く水面を見ながらライトニングはぼんやりと―先ほどまで見ていた夢のことを思い起こす。
強大な力を持つ帝国に、弱いながらも力を合わせて立ち向かう反乱軍。気付けばその先頭に立って戦っていた後ろ姿。
時に魔物に騙され、時に罠にかけられて牢に入れられ、時に奪われていく命を見送って泣いていたのだろう…悔しそうに膝をついていたあの背中は間違いなく…
―考えてみれば、今までに聞いたことのある話と奇妙に重なる部分がある。そう考えるとすぐにでも話を聞きたくて、いてもたってもいられなくなって…だが、空を見遣っても未だ太陽は低い。この時間では、まだ彼が目を覚ましてくることはないのだろう。

「全く、私らしくもない」

早くこの話をしたいと思って焦れている自分の存在に気付き、ライトニングは口の端に微かに自嘲気味な笑みを浮かべる。
今日は自分も彼も、特になすべきことを指示されているわけではない。他の仲間が次に解放すべきひずみを探しに行くのを待っている間、時間はたっぷりとある。そう思いなおすとライトニングはひとつ大きく頷いて、再び湖へと視線を送った。
もしも、自分の見たあの夢の内容が自分の推測するとおりだったとしたら―その時彼はどんな顔をするのだろうか。そんなことを考えながら、雲の向こう側で少しずつ光を強くする太陽をその目に移し―踵を返すと、仲間達の眠る野営地へと再び足を向けていた。


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