惑い、想い-3/4-






ライトニングがフリオニールの腕を引いてやってきたのは、山道に入る手前の岩場だった。ここならば邪魔が入ることもないだろう。
そしてフリオニールの退路を塞ぐ形で、転がった大きな岩に腰掛ける。この岩を超えなければ野営地には戻れないし、そこにライトニングが陣取っているのならばそのライトニングを無理やりどかせてまで戻ろうとはしないだろう…
ライトニングの考えたとおり、フリオニールはここまで連れてこられた以上は無駄な抵抗はしないつもりなのか無理やり戻ろうとするようなことはなかった…が、それでも黙ったまま、ライトニングに視線を向けることもしない。
岩に腰掛けたライトニングは脚を組み、自分に視線を向けようとしないフリオニールをしっかりと見据えた。

「…単刀直入に聞く。何があった」
「別に…何も」

消え入るようなかすかな声で呟かれたその言葉。
フリオニールの視線は相変わらず、ライトニングに向かうことはない。どこかを見ているということもなく、ただぼんやりと視線を彷徨わせている―相変わらず、嘘が下手な男だ…ライトニングはそんなことを思いながらその横顔をじっと見据える。

「それが何もないような態度か?」
「…ライトには関係ない」
「じゃあ聞くが、私はお前の何だ」

口調が自然と鋭くなる…今のフリオニールの態度がどこか気に食わないせいもあるが、ライトニングを苛立たせるのは…目の前にいる、誰よりもよく知っているはずのフリオニールがとてつもなく遠いように感じられることで。
ライトニングの問いに、フリオニールは答えない。

「もう一度聞くが私が嫌いか?あれだけ愛していると言っていたのは全部嘘か?」
「違う…ライトのことは好きだ、愛してる…けど」

そしてまた途切れる言葉。
沈黙が重い。しかしその重さなど今のライトニングには大したことではない…ただただ、目の前のフリオニールが態度をここまで硬化させている理由が分かればそれでいい。
自分を愛しているという言葉に嘘はない、そのくらいは分かる。ではこのフリオニールの態度はなんだというのか…

「…黙ってちゃ分からないだろう」
「重なったんだ」
「重なった?」

フリオニールの言葉に、ライトニングの眉根が寄る。言いたいことが今ひとつよく分からない。

「ライトが一度この世界から消えた理由をヴァンから聞いた…俺たちを生かすために、次の戦いの為に犠牲になりに行ったってこと」

やはり原因はヴァンにあったのか、と内心思いながらもライトニングは黙ったままフリオニールの話に耳を傾けている―今フリオニールが言っている事は大筋で間違っているわけではなかったし。

「…元の世界にいたとき、俺は沢山の仲間の死を見送ってきた。俺や仲間たちを守る為だったりかばう為だったり、俺たちのための力を残す為だったり」

小さな声で、それでも一度覚悟を決めたからかフリオニールの口からはすらすらと言葉が滑り出す。
唇を噛み締め、時折心から悔しそうな表情を浮かべながらフリオニールの言葉は続く―

「その時の俺の気持ち、ライトに分かるか?仲間が犠牲になってるのに何も出来なくて、犠牲になったのは自分のせいで。どれだけ俺は無力なんだろうって…何度仲間を見送ってもどうしても慣れる事はなくて、ずっと悔しい思いをし続けてきた」
「フリオニール」
「…俺は知らないところでまた仲間を犠牲にしてた…それも、ずっとずっと好きだった…誰より大切なはずだった君を」

そこでフリオニールの視線がようやっと自分を捕らえる―その瞳は、ライトニングが今まで見たことがないような哀しみに彩られていて―
あの時はあれが最善の選択だったはずだった。だがこうして時が流れて、今になってあのときの行動がフリオニールを傷つけている。
それでも方法はそれしかなかった―それが仲間たちの為だった。
フリオニールもきっとそれは分かっているんだと思う。だからこそ彼は…戸惑っている。


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