たとえ凍てついても-3/3-






自分の足音、そしてその後に続くフリオニールの足音に耳を傾けながらライトニングは考える―あの恐怖は一体なんだったのだろう、と。

「俺が…どうかしたのか?」

ライトニングの中でさえまとまっていない答えを求めてフリオニールから放たれる言葉に何を返すべきなのか。その答えを探して、ライトニングの視線は宙を舞う―ひらりひらりと舞い落ちる白い雪が目に止まり、ライトニングは無意識のうちに掌を差し出して白いその欠片を受け止めていた。
掌の熱に耐え切れず、すぐに水の粒へと姿を変えたその雪を見ていて―ふと、ライトニングの中にひらめいた「答え」。
分かってしまえばあまりにも単純なこと―なんだか可笑しくなって、口の端にはかすかな笑みが浮かぶ。きっと未だ自分の背後にいるフリオニールは気付いていないだろうけれど。

「雪の中に倒れているお前がとても冷たくて―お前が、お前でなくなるような気がしていた」

何故そんなことを感じたのだろうか―ライトニングには曖昧な答えしか出すことが出来ない。
元の世界で起こった「何か」を思い起こしたのかもしれない―無論、元の世界にいたときの記憶が薄い以上そうだとしてもはっきりとは分からないが。

「お前はお前のままで、この世界にいる間はずっと側にいると当たり前のように思っていた。その、『当たり前』が壊れてしまうのが怖かった…のかもしれない」

いつかは離れるのは分かっている。
違う世界に還ることは分かっている。
だが、避けられないその別れの瞬間までは側にいられると当たり前のように信じていたからこそ―あの時触れた冷たさに、フリオニールが自分の知らない『何か』に変わってしまうような奇妙な錯覚を覚えていた。
続けられなくなった言葉の代わりに、再び雪を踏む音だけが響く。視線を伏せたまま雪道を歩き続けるライトニングの肩に、不意に優しいぬくもりが触れる―それがフリオニールの掌だと、気付くのに時間はかからなくて。

「『当たり前』が壊れるのが怖いなんてそんなの、それこそ当たり前だと思う」

肩に触れた手はそのままライトニングを強く引き寄せ、ライトニングはフリオニールに肩を抱かれる格好になる。
先ほどまであんなに冷たかったはずの身体は、ライトニングが分け与えた温もりをライトニングに返すかのように確かな暖かさをライトニングの身体に植えつけていた。

「俺だって、ライトが違う何かに変わったりしたら嫌だしそんなことになるのは怖いよ。けどそれはその、それだけ俺がライトのことを好きだからで…だからその、えーと」

自分で言っておいて照れくさそうに言葉を選ぶフリオニールの様子が可笑しくて、先ほどとは全く違う意味での笑いが口の端に浮かぶ。
言いたいことは分かるのだが、今更そんなことをはっきり言うのにこんなに照れなくとも構わない、だろうに。

「その、つまりライトも」
「今更確かめる必要などないだろう―お前を失うのが怖いのは私がそれだけフリオニールを愛しているから…なんだから」
「…ライトはさ、ほんとそういうとこずるいと思う…あっさり言っちゃうんだもんな」

視線を向ければフリオニールは陽に灼けた頬を微かに紅潮させてはにかんだ笑顔をライトニングに向けている。
視界一面の銀世界とは何処か不釣合いにも見えるその笑顔は不意に真面目な表情にとって代わり、そしてフリオニールの唇が意を決したかのように言葉を紡ぎ始めた。

「大丈夫、俺は俺以外の何かになったりしない…ライトの側にいられなくなるのは俺だって嫌だし」
「お前こそ随分あっさり言い切るようになったな」

からかうように返したその言葉が照れ隠しだと、フリオニールは気付いているのだろうか―勿論、気付いていなくたって構わないけれど。
雪の冷たさも気にならないほどに自分を熱くさせるフリオニールの存在がやはり愛しくて、ライトニングは自分を見つめる琥珀色を真っ直ぐに見据えて―自分では想像もつかないほどの優しさを隠した微笑みを向けることしか出来なくなっていた。


「…もうあいつら置いて行っていいんじゃないか?」

遠巻きにその様子を見ていたラグナの呆れたような呟きに、カインは無言で苦笑いを浮かべティナはただ羨ましそうにふたりの姿を見つめていることに、見つめ合うふたりはまだ気付いていない。


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