たとえ凍てついても-2/3-






「あれ、俺確か…」
「足場が崩れて崖から落ちたんだ。大した怪我はないようだが暫く気を失っていた」
「崖から落ちた…って、じゃあなんでライトはここに…」

問いかけてから気付いたのだろう、ライトニングの背後にはライトニングが滑り降りた跡がシュプールのように残されていることに。
途端にフリオニールは気まずそうに唇を閉ざし、ライトニングから視線を外す。その状態のまま、あまりはっきりとしない声でぼそぼそとライトニングに問いかけてきた。

「つまり、その…俺が落ちたから助けに来てくれた…ってこと、だよな」
「それ以外に私がわざわざ崖下まで降りてくる理由があると思うか?」
「…なんだろう、俺またライトにカッコ悪いところ見せちゃった気がする」

はあ、と息をついてがっくりと肩を落としたフリオニールの、その肩に掌でぽんぽんと触れる。
気にするな、と言葉にしてしまえばフリオニールが余計に気にするのは目に見えている―だから、今は言葉には頼りたくはなかった。
そのまま立ち上がると、ライトニングはフリオニールに向けて手を差し伸べる。もう少し休ませておきたい気もしてはいるが、だからと言って仲間達をあまり待たせておくのも良くない事だってライトニングはよく分かっている。

「傾斜が緩やかになっていて崖の上に徒歩で上がれる場所で他の仲間が待ってる。進むなら早くしないと心配をかけてしまうぞ」
「あ、ああ」

差し出された手は素直に取って、フリオニールはゆっくりと立ち上がった。加えられた衝撃のせいで違和感があるのか、腕を回してみたり肩を動かしてみたりして身体の調子を確かめつつ…そこで、フリオニールは大きく身震いをした。
その仕草に思い出す、先ほど触れたフリオニールの身体の冷たさ…その瞬間に心の奥に感じた冷たい感情がライトニングの中に甦る。そしてそれと共に沸き起こった強い衝動―
ライトニングの両腕はその刹那、フリオニールの身体を包み込むように力強くその背中に回されていた。

「…ら、ライト…?」
「身体が冷えているなら少し温めてから進んだ方がいいと思っただけだ」

フリオニールに触れる全ての場所に感じる冷たさが先ほどライトニングが感じた得体の知れない恐ろしさを呼び起こして…急がなければいけないのは頭では分かっているのに、何故だろう―フリオニールを離したくなくて。
ライトニングの行動に躊躇いがちに視線を泳がせていたフリオニールではあったが、その―冷やされてはいるが力強い腕が、そっとライトニングの身体を抱き寄せた。

「ライトはあったかいな」
「お前が冷たすぎるだけだ、馬鹿」

自分を包み込むようなその冷たさは―先ほどまでのそれとは違い、恐怖も不安も与えることはない。先刻のあの感情は一体なんだったのだろうか、そんなことを考えながらライトニングは暫しそのままフリオニールに抱きしめられていた。
熱が奪われるような感覚も、その代わりにぬくもりの戻るフリオニールの身体を感じるだけで厭うべきものとは到底思えず―寧ろひとつの熱をふたりで分け合っているせいか何故だかひとつに結ばれ繋がりあっているような不思議な錯覚さえライトニングに与えていた。
やがて、触れ合う身体の冷たさが気にならなくなった頃―ライトニングは視線だけを上に運ぶと、フリオニールの背中に回していた腕をゆっくりと解いた。

「そろそろ行くぞ。流石に仲間達が心配する」
「あ、ああ…そうだな」

先ほどに比べてほんの少し血色が戻ったように思えるフリオニールの表情を確かめると、ライトニングは先に立って歩き始める。
あの、自分でも説明の出来ない冷たい恐怖のことを忘れるかのように、振り払うかのように―フリオニールの方を振り返ることなく、ライトニングはただひたすらに歩き続けていた。
ざく、ざくと雪を踏むふたり分の足音だけがその場に響いている―声をかけることもなく、かけられることもなく。ただ響いているのは足音だけ。
だがその足音が不意に―なんだか、自分たちを追いかけているような気がして、ライトニングは足を止めた。―追ってくるものなど、何もないと言うのに。

「…どうしたんだ、ライト」
「―お前が」

もしも今の自分たちを―否、自分を追ってくる物があるとしたらそれは先ほど感じた得体の知れない恐怖。ライトニングの心ごと凍りつかせるようなあの感情―
自分が足を止めた理由を伝える必要があるとしたらそこから説明しなければならないのに、自分にさえ正体の見えないあの恐怖をどう言葉にすればいいのだろうか。
考えながら、ライトニングはちらりとだけフリオニールに視線を送り…軽く頭を振ってから歩き始めた。


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