愛し方の迷い道-2/4-
「フリオニールを愛したことで、私は強くなれたと思っていた…だがそれと同時に弱くなった、そんな気がしてならない」
「でも、私だってそうだよ」
鍋の火加減を見ていたティファがぽつりと呟く。…その言葉に、ライトニングは思い出していた…そう言えば、今日ひずみに向かっている中にはクラウドもいたのだということを。
なんだか言葉が続けられなくて、黙ったまま視線だけをティファの方へ送る。ティファはライトニングが言葉を返さないことに気付いたのかぽつりぽつりと言葉を繋ぎ始めた。
「クラウドのこと、全部忘れてたはずだったのに…あの時はクラウドがいなくても平気だったのに、今はやっぱりクラウドと一緒にいられないと寂しいって思っちゃう。でもね」
鍋の中身が沸き立ち始めたのを確かめたのか、ティファは塩の入った器をライトニングに差し出しながらにっこりと笑いかける。
その器を受け取りながら、じっとティファを見つめ「でもね」の続きを待つライトニング…それに気付いたのだろう、ティファは鍋をちょいちょいと指差し、塩を入れるように促しながらも言葉を繋いでいた。
「一緒にいられることで得られる強さは嘘じゃない、って私は思ってる」
「…ティファ」
「それに、離れてたって心はクラウドと一緒にいる…つもりではいるけどね、私は」
その言葉に流石に照れてしまったのか、ほら、と小さく呟いて促すようにライトニングの背中に手を添えたティファに短く言葉になっていない返事を返すと、ライトニングは器から塩を少し手に取り鍋に入れた。
そのままレードルでスープをひと掬いして口をつける…もう少し塩を足せば何とか食べられる味になりそうだ。そう思いながらライトニングは器から一つまみだけ塩を手にとって鍋へと入れる。
もう一度味見をして、これなら大丈夫かとひとつ息を吐いたライトニングは先ほどティファが誤魔化してしまった話の続きを、ゆっくりとした口調で切り出していた。
「離れていても心は一緒に、か」
「…ずっと一緒にいることなんて絶対出来ないんだから、せめてそう思ってないと…ね」
微笑んだティファがなんだかとても眩しく見えて、ライトニングはただ頷くことしか出来なくなっていた。
自分はそこまではっきりと言うことが出来るだろうか?そんなことをふと思う―よくよく考えてみれば、元の世界の記憶が薄いライトニングは過去に誰かを愛した記憶すら持っていない。
もしかしたら元の世界にそんな存在がいたのかもしれない、だが今の自分はそれを覚えていない。だから…誰かを「愛する」ことそのものが、ライトニングにはとても難しいことのように思えることが時折あった。
「人を愛するということには時々とてつもない困難が伴うものだな」
「んー…ライトは難しく考えすぎなんじゃないかな」
ぽつりと呟くと、ティファはぽんぽんとライトニングの背中を叩く。そしてその手にあったレードルを手に取るとスープを一口飲み、小さく頷いてみせた。
「考えすぎ、か」
「そうそう。強くありたい、自分らしくいたいって言うところで凝り固まりすぎてなんだか良く分からなくなっちゃってるって言うか」
呟くとレードルをライトニングの手に返し、ティファは今度はライトニングの肩を叩く。
その笑顔はとても真っ直ぐで、とても眩しくて―迷って躊躇っているライトニングにはない「自信」に溢れているように、ライトニングには見えていた。
「色々考えちゃってはいるけど、フリオニールのことが好きだって気持ちに嘘はないんならきっと…自然と答えは見えてくると思うよ」
それだけ言い残して、ティファは先に仲間達の元へと戻っていった。
その背中を見遣りながら、ライトニングは考える―ティファの言うことが正しいとするならば、自分が強くありたいと願うこととフリオニールへの想いが両立できない気がして悩んでいることがただの考えすぎだとするのならば。
明日フリオニールが帰ってきたらこの話をしてみようか、そんなことをぼんやりと考えながら空いている皿にテントで寝込んでいる仲間達の分のスープをよそっていた。
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