愛し方の迷い道-1/4-






その日、ライトニングは―彼女には珍しく、どうにも落ち着きがなかった。
理由は単純、ここから少し離れたひずみを解放する為に、仲間達の何人かが一行から離れている。
いつもなら野営地ごと移動するのではあるが、今日は間の悪いことに仲間達の何人かが風邪を引いてしまったために野営地を動かさないことになったからで、ひずみの解放に向かった仲間達は恐らく今日一日は戻ってくることはない。
そしてその中に、フリオニールが含まれているから―今日は一日、フリオニールと離れて過ごすことになる。ただそれだけなのに、どうにも落ち着かない。
だが、そんなことを気取られてはいけない。他の仲間には悟られないよう、ライトニングは努めて冷静に振る舞おうとしていた―はずだった、が。


「…うーん」

その日夕食当番に当たっていたライトニングが作ったスープを啜って、セシルが首を傾げる。そしてその次はユウナが。
仲間達の様子にライトニングもまた首を傾げるが、スープを一口啜ってその理由に思い当たる…そして思い当たったところで、ジタンがぽつりと一言。

「今日のスープは…なんと言うか、随分ユニークな味だな…」
「…はっきり不味いと言ってくれて構わない」

はぁ、とひとつ息を吐くとライトニングは立ち上がった。
上の空で料理をしていたのは認めざるを得ない。だが、ここまで酷い料理を作ったのは実に久しぶりだ―そうなってしまった理由がなんとなく自分でも分かるから、溜め息が出るのも已む無しというところだろうか。

「すぐに作り直すから少し待っていろ」

風邪を引いた仲間がいないのならこのまま我慢して食べろとでも言うところだが、風邪を引いている仲間がいるのだからそうも言っていられない―と言うより、病人にこれを食べさせるわけには行かない。
すぐに鍋の方に向かったライトニングは一口だけ味見をして、さてどうやって味を修正したものだろうかと鍋を前に考え込んでいた。

「水をもうちょっと足してから一度沸かして臭みを飛ばして、その後塩を少しだけ足して味を調えたらいいんじゃないかな」

背後から聞こえてきた声に振り返ると、笑顔のティファが立っている―確かに彼女は仲間達の中でも一、二を争う程の料理上手だ。そのティファの言う事にも一理あると思い、ライトニングは無言のままうなずくと汲み置きの水を鍋に少しずつ注ぎ始めた。
ティファも手伝うつもりなのだろうか、調味料や食材を手際よく用意していく―だが、ふと手を止めると視線をライトニングの方に送ったまま、ぽつりと口を開いた。

「やっぱり…フリオニールが心配?」
「私が心配をする必要はないだろう、あいつも他の仲間もそんなに弱いなんてことはない…だが」

そこで短く魔法を詠唱し、かまどの中に向けて炎を放つ。少し弱められていた火が強くなり、水を足したことで少し冷めたスープがふつふつと煮立ち始める。
それを確かめてから、ライトニングはティファのほうへと視線を送りなおした。

「…フリオニールがいないことでなんだか落ち着かないのは確かだな」

観念したかのようなライトニングの呟きに、ティファは小さく笑みを零す。笑われたのが不服だったせいもあって、ライトニングはそちらから視線を反らすとぽこぽこと小さな泡が浮かび始めたスープのほうに視線を移した。
ティファのことは考えないようにしながら、どのくらい沸かせばいいだろうかなどと考えていると背後から再び聞こえてくる声―その声には、もう笑いは含まれてはいない。

「やっぱり寂しい?」
「寂しくないといえば嘘になる…自分でもこんな風に思うなんて想像もしていなかったが」

いつも一緒にいて、共に戦っている―フリオニールの存在を心強いと思うことはあれ、フリオニールがいないことでそれを寂しいと思ってしまう自分の存在に気付いてライトニングはひとつ溜め息をついた。
自分はこんなに弱かっただろうか、そう思うことも時折ある―そもそも、この世界に来る前の記憶はぼんやりとしか残っていないとは言え―フリオニールと出会うまではそんなことを考えたことは当然ながら一度もないはずなのに、そんなことを考えてしまう自分がほんの少し忌まわしくも思えてきたり―


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